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心の拠り所 3
沖の店に寄ってから帰ろうとしていた所に、班の皆で飲むからと佐木に「マル対、確保」と居酒屋へ連行された。
「今日は班長も一緒なんだし付き合えよ」
と一緒に飲みにきた班長である西久保(にしくぼ)と佐木の間に座らせる。
佐木にはよく飲みに誘われ、前はお供をしていたが、沖の店へと行くようになってからは断ることが多い。
しかも西久保も一緒に飲むのは何か月かぶりではないだろうか。
「こうして飲むの久しぶりですね。二人とも連れないから」
西久保は郷田の父と同じ年で、一年前に娘が嫁に行き、夫婦だけの生活となった。それゆえに帰れるときは飲まずに帰るようになった。
「はは。悪いなぁ」
「班長は仕方がないとして、郷田ですよっ」
「お前さん、好きな奴でもいるんじゃないのか?」
からかうように西久保にいわれ、
「なっ、まじか」
と佐木が前のめりになり、どこのどいつだと肩をつかんで揺さぶられた。
「いえ、美味い定食屋を見つけて」
色気より食い気、それがわかった途端、佐木がつまらんと揺さぶるのを止めた。
「ははは、胃袋をつかまれたか」
「はい。ですが、店主と、その店の雰囲気も好きです」
初めての時は流石に警戒されたが、二度目からは彼だけは自分を迎え入れてくれていた。
食事をしている時は視線を感じるし、頂きますとごちそうさまの言葉に返事をしてくれる。
今は郷田を刑事だとしり、あの時間に会う客には声をかけられるようになった。
その中で河北はよく自分に話しかけてくれる。元々、おしゃべり好きなんだよと、そう沖が教えてくれた。
「なにぃ、場所を教えろ!」
「秘密です」
興味津々な佐木に郷田は何故かその店のことを教えたくなかった。
暖かくて大切な場所。小さい頃に作った秘密基地のように内緒にしておきたいと思ってしまったのだ。
「後輩の癖に先輩に秘密ごとなんざ、いい度胸だなぁ」
自分よりも細身で頭一つ分背丈が低いが、どんな男相手にも佐木は怯まない。
今もプロレス技をかけられ、ギブです、と腕を叩く。
「おい、佐木よ。プライベートなことにまで首を突っ込まなさんなって」
野暮だなぁ、と、佐木を止めてくれる。
「班長だって気になるでしょ! 割烹着が似合う美人店主」
佐木はどうやら女性が店主で、料理以外に目当てで通っているのだと思っているようだ。
「まぁな。おめぇら二人は俺の息子みてぇなモンだからな。幸せになって欲しいのよ」
班長も勘違いをしているが、父親のようにいつも温かく見守ってくれていて、その心は嬉しいので訂正することなく黙って気持ちを受け止める。
佐木も西久保の気持ちはうれしいようで、照れ笑いを浮かべていた。
「しょうがない。俺はお前の兄貴として見守っていてやる」
ひとまず、これ以上はからかったり、追及はしないでくれるようだ。
「俺は良い先輩に恵まれていますね」
そう笑みを浮かべれば、佐木に背中を叩かれてコップになみなみと酒を注がれた。
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