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心配する 2
「すぐに用意するから座って待っていてね」
座布団を指さし、食事の用意をしはじめる。
とはいっても冷凍庫にある作り置きを温めて出すだけなのだ。
「ごめんね。作り置きを温めただけなんだけど」
「いえ。頂きます」
いつものように食事の前の挨拶をする。料理は次々と郷田の胃袋へと納まっていく。
気持ちの良い食べっぷり。これが見たかったんだと、沖はその食事の様子をじっと眺める。
「あの……」
二人きりの空間で、遠慮なく見つめる視線が気になるのだろう。
「ごめん! 俺さ、自分の作った物を美味そうに食べて貰えるのが嬉しくて、つい見ちゃうんだ」
「いえ。前から見られているとは思っていたんですが、そういう理由だったんですね」
「あ、店でも見ていたの気が付いていたんだ」
さすが刑事さんだね、と、苦笑いを浮かべる。
「郷田君、口いっぱい頬張るでしょ、それが可愛いんだよね」
リスみたいだと、頬を指で突っつく。
「はぁ。かわいい、ですか」
それは納得できないか、首を傾げる郷田に、沖はクスクスと笑い声をあげる。
「見られるのが嫌なら言ってね。台所に行っているから」
「いえ。料理が美味いんで、気にならないです」
それは料理人としては喜んでいいことだろうが、意識して貰えない存在ということか。
それはちょっと悲しいなぁ、と、何故だろうかそういう気持ちになる。
「郷田君、俺は自分の作った料理を褒められるの嬉しいけど、彼女とかには言っちゃ駄目だよ?」
その言葉の意味を理解できなかったか、小首を傾げるだけだった。
食事を終え、家に帰るという郷田と共に外へと出る。
「御馳走様でした。明日は店に行きますね」
「うん。待ってる」
「では、おやすみなさい」
「おやすみなさい。またね」
頭を下げて歩き出す郷田の背中を見送る。
明日、店に来てくれることに胸が弾む。少し手の込んだ料理でもだそうかなと思うほどだ。
また明日ね。
既に姿が見えなくなった郷田へ向けて呟き、沖は部屋の中へと戻った。
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