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第17話

王は機嫌が良かった。 やっと望むものを手に入れた。 自分の罪を声高く批判する聖者は地下に閉じ込めて。 欲しくて欲しくてたまらなかったサロメがとうとう折れた。 もっと時間がかかると思っていた。 自分の父親を殺した男と寝ることも、自分の義理の父親と寝ることも罪。 父親の弟と寝ることも。 母親と1人の男を共有することも。 あのサロメか折れる要素はどこにも無かった。 僧院で朽ち果てることを望んでいたあのサロメが。 最終的には無理やり鎖で繋いで寝室にまで連れて来なければならないと思っていたのに。 それは流石に民を怒らせただろうぞし、流石に王の中でも一線を越えることだった。 弱い王は要らない。 それが兄を殺したいい訳であり、帝国の属国に成り下がっているこの国の民もそう思っている。 だから、罪無き前王を殺したことを見ないことにしている。 そして、女が自分を選んだ。 兄の妻は自ら兄より自分を選んだ。 それは誰もが知ってることだ。 そう、奪いはしたが、それはあの女の望み。 強い王の王妃になりたかったのだ。 だから王としては例え聖者に非難されようと。 罪ではないと自分に言い聞かせることができたのだ。 だが。 サロメはそうはいかなかった。 サロメを無理やり犯すことは、王にとっては超えてはいけない壁だった。 だが、今、サロメは自ら膝をついた。 これで王は言い訳できる、 サロメが自分から来たのだと。 宴が終われば、いや、宴の最中でも、サロメをおかそう。 寵姫にしよう。 自らそうなったのだ。 着飾ざり、抱かれにやってくるのだ。 これは罪ではない。 王はサロメを待ちわびていた。 サロメは従者の代わりに兵士を連れて宮殿へ現れた。 王が贈った服を着て。 7つの衣を重ねたその姿は美しく。 それらを王が一枚一枚脱がすための服だと分かっていた。 美しい首筋を隠すような金の首輪も、髪を閉じ込めるような髪飾りも。 それを外して楽しめるのは王である事を示すためのもの。 寵姫としての身分を知らしめるための衣装でありアクセサリーだった。 宴に集まった人々は声を潜める。 幽閉された王子なら哀れだが、寵姫に堕ちた王子ならば蔑みの対象だ。 サロメの母親のように。 王に逆らうことなど出来ないからこそ余計に疎まれる。 「親子で」 「汚らわしい」 そう囁く。 王は大っぴらでない限り咎めない。 自分の罪を引き受けてくれるからだ。 王の隣りに座る母が嫉妬に濁った目でサロメを見下ろしている。 王かいなければサロメからその服を剥ぎ取り、アクセサリーを奪い、辱め責め立てただろう。 かつては母だったモノ。 どうして。 こんなにも狂ってしまった? 母は確かに野心が強く強欲ではあったけれど。 サロメは聖者に狂った日から考え続けている。 サロメにしろ、母にしろ、王にしろ、兵士にしろ・・・ 何故こんなにも狂う? 人間が罪深いだけでは済まないはずだ。 サロメの知性は何かを訴える。 おかしいことだと訴える。 だが。 サロメは今は王の前に進む。 欲しいモノを手に入れるために。 隣りに立つ兵士が震えている。 首を切り落とされるのは確定だからだ。 だが兵士も逃げない。 サロメを犯したことをバレる前に逃げるべきなのに。 何かがおかしい。 サロメはそう思っている。 思ったところでなにも変わらないが 「世界は変わる、救いが来る」 聖者の言葉が何故かサロメの中で響いた。 王は頭を押さえる。 まただ。 また聞こえる。 「悔い改めよ」 聖者の声が。 やっと閉じ込めたのに、今度は自分の頭の中から聖者が言うのだ。 何が悪い。 悪いのだ。 弱き王なのが悪いのだ。 弱い王から王座と妻を奪った だが民から妻を奪ったわけでもない。 それを言ったのが聖者じゃなければ、そう出来ない者の嫉みだと王は思っただろう。 だが。 兄を嫌いではなかった。 弱い兄を。 妻を奪って殺したが。 むしろ・・・。 だが、その妻は甘かった。 たまらなく甘かった。 兄を殺して抱いたその夜は忘れられない。 そして、その息子も甘いだろう。 今日その果実を齧る。 兄の妻より、その息子はこの手で殺した兄に似ていた。 弱くて美しかった兄に。 ああ、兄も抱いてしまえば良かった。 殺す前に。 あの兄なら。 甘かったに違いない。 流石に前王にそこまですることは・・・ だが、一度罪を犯したならもう罪人。 許されないのなら、何処までも行くべきだった 罪とは消えないものなのだ。 「罪を赦されるだろう・・悔い改めるなら」 あの聖者の言葉が耳もとでしたが頭を振って消す。 行くだけだ。 行くだけ。 サロメを汚そう。 そしてサロメも罪人となる。 罪を犯し、また罪人をつくる。 これ以外に道などない。 王は笑顔でサロメをむかえたのだった サロメは膝を付き、臣下の礼をとる。 王子としてではない礼に王は満足する。 充分。 犯して寵姫にしてしまえば、王位を狙うこともできない。 一度でも慰みものモノになった王など、民は認めない。 王位を脅かす存在も除去できる。 サロメのための席を自分の隣りにつくらせる。 宴がある程度終わるまで、サロメに手を出すわけにはいかないが。 待ち遠しいが仕方ない。 隣りで憎々しげに息子を見つめる妻など気にすることはない。 ここはもう、地獄。 ならば好きにするだけだ。 「悔い改めよ・・・救われる」 聖者の声が聞こえた。 スグ間近で。 だが。 聞こえないフリをした。 王は美しいサロメを隣りに座らせご機嫌だった。

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