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第21話

「言ってみよ。何でもあたえてやろう」 だが王はサロメが王座などと言い出したら、笑って殺すつもりになっていた。 この宴がはじまる前とは王はもう別人だった。 宴の前は悪徳の王だった。 だが今は狂王だった。 サロメという道を通り過ぎ、すべての恐れを捨てた。 もう神を恐れない。 もうなにも恐れない。 どんなことでもやれる。 何をするとしても「そうしたい」以上の理由など必要ないと想えるようになっていた。 建て前さえ要らない。 そうしたいならそうするだけだ。 だが、サロメの願いは気になった。 良いだろう叶えてやろう。 それも面白い。 何よりまだまだサロメで楽しもうと思っていたからだ。 どんなに酷く扱ってもかまわない高貴な王子というのは貴重すぎる。 「聖者の首を私に。地下牢の聖者の首を切り落として私に下さい」 サロメは王を見つめて言った。 乱れた髪。 兵士の精液のこぼれる口元。 王の放った精、自身の精で汚れた下半身。 それでもサロメの目は燃え上がり、恋する少女のように聖者の首を欲しがった。 さすがに王も沈黙した。 そして同時にサロメの狂気の理由を知った。 「あの人の首が欲しい・・・」 サロメの言葉は欲情そのものだった。 そのためだけに堕ちたのだ。 そのためだけに狂ったのだ。 そのためだけに捨てたのだ。 王は笑う。 なんてことだ。 沢山のモノを欲して堕ちた自分より、たった1つのモノ欲しさに堕ちていくサロメの方がどれほど罪深いのか。 「罪を認めて悔い改めよ。許される」 聖者の声がきこえた。 王に。 そこにいる全ての人に。 王は首を振る。 もういい。 もういい。 もう決めたからねむれるだろう。 救いはいらない。 救い等ないことこそが救いなのだ。 王は王の前だというのにサロメに寄り添う兵士に目をやる。 そして兵士に命じた。 「聖者の首を切り落とし、ここへ持ってこい」 そして、服の下に隠していた、首から下げた鍵を兵士へと投げやった。 その鍵が地下牢のものだと兵士も、そこにいる誰もがわかった。 王しか持たぬ地下牢の鍵。 あの閉じた格子の鍵。 王は兵士をそこへやり、聖者の首をサロメに与えることに決めたのだった

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