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第九話「Cats Stole the Cream」

 最近、将平が不動産に行く回数が増えた。色々な不動産を巡って、本気で家を探しているらしい。それから、車の雑誌が机に乗っていることも多くなった。  そして、将平が裕二に手を出してくる回数が、極端に減った。 「……もうすぐバレンタインだね。前後は裕二さん忙しくなるでしょ」 「ああ、そうやね」  裕二は苦笑いを浮かべる。バレンタインデーにケーキを食べたいという人は、何故か多い。皆、ケーキを食べる特別な理由がほしいようだ。ホールケーキの予約も、既にいくらか入っている。 「俺が休みの日は手伝うよ」 「ありがとう。ばってん、手伝いはよかよ」  将平があからさまに寂しそうな顔をする。裕二はくすくす笑って、テレビのチャンネルを替えながら言った。 「手伝ってもらわないかんほどじゃないけん。うちほとんど常連さんしか()んけんさ」 「うーん、でも暇だから」 「服でん買いにいけさ。あと、不動産とか、行かないかんとこいっぱいあるやろ?」 「……そうだね……」  将平は少し納得いかないと言っているような声音で頷く。彼のほうがその約束の話を持ち出してきたくせに、こちらが約束の話を持ち出すと変な顔をする。裕二には、将平が考えていることがよく分からなかった。  将平はしばらく拗ねたような顔で椅子に深く腰掛けていたが、何に気がついたのか、突然はっと表情を変えた。 「……それなら、少し行きたいところがあるから、行ってこようかな」  呟いて、将平は真剣な顔で裕二を見つめた。  バレンタインデー絡みで店が忙しくなる直前の定休日。裕二は、店の備品の買い出しも兼ねてショッピングモールを訪れていた。 「お客様、何かお探しですか?」 「えっ」 「え?」 「ああ、いや、すみません、びっくりして」  裕二は苦笑した。少しぼんやりしてしまっていた。休日とはいえ、バレンタインデー間近なのだから、早く帰らなくてはならないというのに。  店員は裕二の横をちらりと見て、楽しそうに笑った。 「もしかして、エンゲージリングをお探しですか?」 「えっ」  ジュエリーショップの店員は、裕二と、裕二が今まで見ていた婚約指輪の棚を交互に見て、首を傾げた。 「緊張していらっしゃるようだったので、そうかなと思って」 「いや、ええと、(おい)は……」 「違いましたか?」  裕二はしどろもどろになってしまった。 「いや、ええと……、違わんくもないけど……」  一息ついてから、裕二はショーケースのガラスを撫でる。そして、ぼんやりと呟いた。 「……結婚してって言われたばってん、迷っとるけんさ。指輪でも見たら、結婚したくなるかと思ったとですよ」  このおよそ一ヶ月、ずっと考えていた。自分は、彼とどうするべきなのか。毎日たくさん考えた。けれど、結局答えは出なかった。  裕二は、ジュエリーショップに、その結論を探しにきたのだった。彼の真剣な言葉に、きちんと答えるために。 「そうでしたか」  店員は三度頷いた。裕二は目を伏せる。 「でも、よう分からん。……俺とあいつが、結婚するイメージが沸かん」  自分の人生で、もう結婚することはないのだと思っていた。何度も何度も人を傷付けて、傷つけられて、自分はそういう人間ではないと理解していたつもりだった。  それなのに、突然、彼がふらっと現れた。  彼との日々は楽しい。元来人好きで一人が嫌いな性格の裕二にとって、家に誰かがいることは幸せでもあった。けれど、だからといって自分がどうしたいのか、裕二には分からない。  店員はビジネスチャンスを逃すわけにはいかないのか、裕二の言葉について真剣に考えている様子だった。 「……それでしたら、どれか気に入った指輪などございませんか?」 「この、こい、細かやつ」  裕二はすぐに、二列目に並べられていた指輪を指差した。シンプルなデザインで、将平が好きそうだ。  店員は、裕二の様子を見て更に尋ねる。 「その指輪を、お相手の方がつけている姿が、想像できますか?」  できるも何も、この指輪は将平に似合うと思ったから気に入ったのだ。裕二はすぐに答えた。 「もちろん、よう似合うはずですよ」 「……ふふ、よほどお相手の方をお好きなんですね」  店員が微笑む。裕二は、えっと声を漏らしたあと、目を瞬かせた。驚いたが、かけられたその言葉に、違和感はなかった。 「……そんなに細かなところまで想像することができる人なら、きっと、結婚してずっと一緒にいるようになっても、うまくいきますよ」  店員はニコニコと笑う。  裕二は、じっと指輪を見つめた。 「……ずっと一緒に……」  もし、彼とずっと一緒にいられるとしたら、どうだろうか。今の生活が、死ぬまでずっと続くとしたら、どうだろうか。  少し前の、空気の固まった生活じゃない。誰かの――将平のいる部屋で目覚めて、将平と飯を食って、将平の帰りを待つ。そんな日々が、もし、あるとすれば。 「じゃあ、買うていこうかな……」  裕二が呟くと、店員はぱっと嬉しそうに詰め寄ってきた。 「ありがとうございます。指輪のサイズなどは……」 「あ、分からん」  失念していた。確かに、それを知らなければ話にならないのではないか。ふらっと立ち寄ってさっと購入を決めてしまったことが、なんだか恥ずかしくなり、裕二は苦笑した。 「ばってん、俺の指より少し細かぐらいよ。あんまい変わらん」  店員が、あからさまに混乱の表情を浮かべた。それから、ハッと何かに気がついたのか、すぐに尋ねてきた。 「あっ、もしかして、男性の方ですか?」 「ああ! すみません、言うとらんやったですね」  裕二はまた苦笑いを浮かべた。確かに、裕二のような背の高い男にそう言われれば、そんな指の女がいるのかと混乱することだろう。 「いえ、こちらこそ気が付かずすみませんでした。ご準備いたしますのでカウンターへどうぞ」  店員は、裕二をカウンターへ通した。  裕二が風呂から上がってきて、ドサッと椅子に座った。身体が重たい。はー、と大きなため息をついていると、将平が近寄ってきて、向かいの席に座った。 「バレンタインお疲れさま」 「はー、もうあと四年ぐらいは来んでよか……」 「またすぐ来年来ちゃうけどね」  将平はクスクス笑う。裕二はまたため息をつきながら、カシュッと酒の缶を開けた。冷たい酒が喉を通る。将平が、きょとんとした顔で目を瞬かせた。 「……あれ、珍しいね、お酒飲むの?」 「んぁ、うん」 「美味しくなかったら俺にちょうだい」 「飲みたかと? うまかよ、飲んでみらんね」  将平は、裕二からもらった缶をくいと飲んだ。彼もあまり酒を飲まないが、おいしかったのか、将平は更に何口か飲んでから缶を裕二に返した。  緩やかに時間が流れる。裕二が風呂から上がって随分経つが、将平に、特別こちらをどうこうしようという気配はない。将平は、きっと今日も。裕二は、酒の缶を指でペコッと凹ませて、小さな声で呟いた。 「…………あんさ、将平」 「うん?」 「……最近、しとらんやったやん」 「そうだね、どっちも結構忙しかったし」  裕二はカツンと缶を置いた。将平が、裕二の目を覗き込んで、少し微笑む。 「…………したいの?」  前はこんな聞き方はしなかった。いつだって、半ば強引に事を進めてきていたのに。裕二は頷いた。  将平が、裕二にキスをする。椅子にかかったコートを、裕二はちらりと横目で見た。  カーテンを開いた窓際で、裕二はバイブにローションを塗りたくる。ゆっくりとバイブを後孔に押し当てると、バクバク心臓を鳴らしながら、裕二は手を動かしはじめた。 「……は、……っぅ、は、ぁ……」 「これやってくれるとは思ってなかったな……」  将平が楽しそうに笑う。裕二は酒と熱で火照った身体に、バイブをぐいぐい押し入れていく。 「……は、っ、ぁ、あ゙……ッ、ぁ……」 「…………かぁわいいなぁ」 「は、ゔ、お前、酔っ払っとやろ……ッ」  その時、外から救急車のサイレンの音が飛び込んできた。裕二がびくりと飛び跳ねて、将平を睨み見た。 「っ、やっぱこい、無理……ッ、閉めろさ、将平……っ」 「……それはできないなぁ」  将平がくつくつ笑った。窓の外を、車が通り過ぎていく。 「だって裕二さん、すごい気持ちよさそうなんだもん。やっぱり好きだったんだね、こういうの」  裕二は身体をビクビクさせながら、ゆっくりとバイブを抜き差しする。焦れるようで辛いが、早く動かせば、二階とはいえ外を通る人に目を向けられかねない。 「誰が見てるかも分からないのに。電気、全部は消してないから、この部屋のほうが明るいんだよ? 緊張とか怖さで勃たないかと思ったけど、裕二さん、いつもより気持ちよさそうだよね。人目があるの、興奮するんだね」 「お前……っ、意地の悪かこつばっかい言ってかい……!」  将平は少し酔っているのか、いつもより口が回る。しかもその口は、意地悪しか紡がないのだから厄介だ。  裕二に睨まれて、将平はにやりと笑った。 「……だって、恥ずかしいの好きでしょ?」 「やけん、好かんって……ッ」 「冗談。こんなに溶けた顔してるのに」  裕二の頬を指で撫で、将平は微笑む。 「……は、ぁ、……っは、……ぁ、あ゙……」 「ふふ、まさかあの裕二さんが、人目に興奮する変態だなんて誰も思わないだろうね」  裕二は荒く息をしながら、バイブをぐちゃぐちゃと音を立てて動かす。好きなところを押し込むと、身体がゾクゾクと震えた。 「は、あ゙……、ぁ……っ、ふ、ぅ、う……」 「……ふふ、気持ちよさそうだね」 「は……、気持ちい……っ、将平……っ、どやんしよ、俺、気持ちいい、ナカ、きもちい……ッ」  裕二はぼんやりした頭で、淫らな言葉をぽろぽろと口に出す。勃起している性器から、先走りが溢れ出た。  将平がこくりと喉を鳴らした。 「あ、ぁ……っ、きもちい、将平……っ、しょう、へい……っ」  どろどろに呆けた顔をして、裕二が言う。自分が、人目があるだけで、ここまで快感を感じる人間だとは思わなかった。こんな時間にこの辺りを出歩く人などいないと分かっていても、見られているかもしれないと思うだけで、身体はびくびく反応する。 「ッ、そんな顔しちゃってさぁ……」  将平は低い声で呟いて、それからニヤリと笑った。 「ホントにかわいいね……」 「はぁ、は、……っぁ、あッ、将、平……? ……しょう……」  将平が、静かにバイブに手を添えた。 「…………ッン゙、あ゙……ッ!?」  裕二が飛び跳ねる。将平に、バイブを前立腺に強く押し付けられたのだ。強い衝撃と弱い刺激が立て続けに襲い、裕二は目を白黒させた。 「な゙、に……? 将平、なんば、しよ……っ!?」 「……ごめんね、せっかく裕二さんが一人で気持ちよくなってたのに、手出しちゃって」 「っあ゙、あ゙ぁあ、ゔ、将平、いかん、イく、それ……、だめ……ッ、イく、イく……ッ!!」 「……ふふ、イッちゃう? 誰かに見られてるかもしれないのに。裕二さんは変態さんだね」  将平がくつくつ笑う。 「ちがう、いぐ、嫌、みらん、で……っ、イく、イッちゃ、イく」 「ふ、違わないよ、裕二さんは今、人目に興奮してる変態なの。ほら、気持ちいいでしょ。イッちゃうとこも見てもらおうね」 「……ッは、無理、む、い゙……ッ、いぐ、いくいくいく……!!!」  裕二はびくびくと性を吐き出した。窓にも白濁液が飛び散る。その光景の艶かしさに、半分正気に引き戻されて、裕二はバイブから完全に手を離し、カーテンに手を伸ばそうとした。しかし、将平の手が止まる気配がない。裕二は腰を捻らせて快感から逃げようとした。 「イ゙っ、イった、い゙っだ、しょうへ、嫌だ、将平……っ」 「っは、そんなに動いたら、してるの外から分かっちゃうよ」 「だって、止まら゙……っ、あ゙、イぐ、また、イく、イく、いぐッ、イぐ……ッ!!!」  裕二の身体がびくんと飛び跳ねる。性器は精液を出さなかったが、ナカがぎゅっと痙攣した。  将平が一瞬驚いた顔をして、それからクスクス笑った。 「……すごい、メスイキしちゃったね。……かわいい、裕二さん。裕二さんのナカ、本当にエッチになっちゃったね」 「ゔ、ぐ、あ゙、あぁ、しょうへい……、とめで……、とめ、ぇ゙……ッ!!」  ぼろぼろと涙が溢れる。ずっと達しているかのように、快感が止まない。死ぬほど気持ちがいい。 「む、い゙ぃ……ッ! ほんとに、死ぬ……、死んじゃう、イ、ぐ……ッ!!」 「死んだりしないから大丈夫」  将平はゆっくりと、裕二の性器を指で撫でた。裕二は足をジタバタさせて、将平の肩を強く掴んだ。 「っ、あ゙ぁああ、しぬ、しんじゃう、けんがぁ、ぁあ゙ッ! じぬ……っ、あ゙ぁあ、や゙めて、将平……ッ!!」 「死なないよ、大丈夫だから」 「ッあ゙ぁあ、じょうへ、無理、イぐ、イぁ゙、ひぐ、いぐぅ……!」  将平が、ちらりと窓の外を見て、突然手を止めた。もう半分達しているような中途半端な状態で、裕二ははくはくと浅く呼吸する。将平が、片手でカーテンを締める。どうしたのかと裕二が尋ねようとしたとき、将平は裕二にキスをした。 「…………ごめんね。やっぱりこんなえっちな裕二さんは、見せらんないや」  それから、ちらりと裕二の瞳を覗き込む。 「……開いてたほうがよかった?」 「っ、んなわけ、なか……ッ! ……ぁ、ゔ、将平、ナカ、いっかい、抜いて……ッ」  裕二のお願いを簡単に無視して、将平は、深くバイブを押し込んだ。前立腺にごりごりと押し付けると、裕二の身体は飛び跳ね、足が大きく震えた。 「……あ゙……ッ!? しょう……ッ、あ゙、あ゙ぁあ……ッ、ぐいぐい、せん……ッ!」 「足、ガクガクしてる。ここ、こうやってぐりぐりされるの気持ちいいね」 「あ゙ぁあ、しょうちゃん、くるし……っ! じょ、へ……ッ、イく、いぐけん、ぐりぐり、せん、れ……ッ!」  将平が、バイブの振動を強める。抉られるような快感と、しっかりとした振動が伝わって、裕二は大きく背を反らした。 「イ゙ぐ、イぐッ!! ひぐッ、いぐ、イ、イぁ゙ッ、あ゙、あ゙ッ、あ゙あぁあッ!!」  裕二の性器が思いきり精液を吐き出す。とろんとした顔で、裕二はびくびくと身体を跳ねさせながら、荒く呼吸を繰り返した。 「は、かは、……っは、はー、はあ……っ」 「……大丈夫?」  将平が小さな声で尋ねる。裕二は深い呼吸を繰り返しながら頷いた。将平が、ゆっくりとバイブを引き抜く。 「……濡れタオル、あったかいのにするから、ちょっと待ってて」  立ち上がろうとしたとき、裕二が将平の腕をはしと掴んだ。 「……裕二、さん?」 「……ぁ、は、……はぁっ……」  裕二が、将平の目の前で、自分の後孔に指を二本押し入れ、ぐっと拡げた。 「……挿、れて……、将平の……っ」 「いっ……」  将平は驚いて、言葉をつまらせた。 「挿れ、たい……」 「……ン、よかよ、ほら……っ」 「で、でも、裕二さん」  将平は、そっと長いまつげを伏せて俯いた。 「……俺、多分、酷くしちゃう、から……」 「将平になら、酷くされてんよかよ」 「…………そういうことされたら、俺、期待しそうになるから……」  裕二は肩で息をしながら、ゆっくりと起き上がる。将平は、俯いたまま言葉を続けた。 「気持ちよくなりたいだけなら、別のやり方で気持ちよくさせてあげる。……前も言ったでしょ。俺は本気で裕二さんが好きなんだよ」 「……好いとうなら、挿れたらよかやろ」 「……ッ、ごめんね、それが、できない……」  将平の手が、ぎゅっと握られる。 「セックス、気持ちよかったんだよね。……してあげたいけど……したいけど、でもそしたら、俺、裕二さんともっと一緒にいたくなっちゃうから……。俺は、もう、今で、十分だから。もう、困らせたくない……」 「……将平」  裕二は、突然よろよろと立ち上がった。将平が、混乱した顔で裕二を見る。裕二は自分の上着へ手を伸ばすと、そこから小さな箱を取り出して戻ってきた。 「……将平、手だしてん」 「手……?」 「右手ば出さん! 左手さい」  少し持ち上げられた将平の左手をそっと取る。驚きを全面に押し出して、将平が顔を上げる。  裕二は、箱に入っていたリングを、そっと彼の薬指にはめた。 「お、やっぱよう似合うと」 「……コレ……」 「よかやろ。こん前()うてきた」  裕二は満足そうに笑った。将平が、怪訝そうな、不安そうな顔で尋ねる。 「……裕二さんは、俺が、好きなの……?」 「…………好いとうやろうね」 「分からないの?」  将平が悲しそうな顔をするのを見て、裕二はケラケラ笑った。 「もうわからんよ。だって、ずっと前に婚約して、キスもセックスもしてしまったけんね。今更、好きかどうかとかよう分からん」  ふっと、裕二が目を細める。笑っているようにも、泣いているようにも見えるその表情は、将平の目を奪ったまま離さない。 「……でも、不思議やね。俺がお前ば好いとうって人に言われても、いっちょん違和感の無かっちゃんね」 「……で、も、でも、それは……ッ」 「……将平、俺も覚悟決めてきとるとばい」  裕二の瞳が、まっすぐに将平を見ている。真剣で、熱のこもった、黒い瞳。裕二が、ゆっくりと将平の指を持ち上げる。それから、その細長い指にキスをした。 「…………俺は、将平とずっと一緒におりたいて思っとるよ」 「……っ、裕二さん、待って、待っとって」  将平が、ドタバタと布団を這い出して、壁にかかっていた仕事鞄から、何か取り出して帰ってきた。 「…………コレ、俺の」 「え」 「婚約指輪……」  将平が、頬を赤く染めて、箱を差し出してくる。裕二は、思わず吹き出した。 「あは、お前も買うとったと?」 「だ、だって、裕二さんが買うなんて思わないでしょ」  将平が、箱から取り出した指輪を、裕二の指に触れさせた。それから、彼は緊張した面持ちで顔を上げた。 「…………、裕二、さん」 「うん?」 「……俺と、結婚してくれる?」 「……しょうちゃんと?」  裕二は、柔らかく微笑んだ。 「…………よかよ、結婚しよう」  将平が、裕二の指に指輪をはめる。裕二が、まじまじとその指輪を見つめた。自分が彼に選んだものより太く、男らしいデザインのものだ。 「……かっこよかやん」 「……似合ってるよ、すごく。20年考え続けてきてよかった」 「おま、俺の5分で決めてしまったとの恥ずかしゅなるやろ」 「俺に似合うのをすぐ見つけてくれたってことでしょ? ……嬉しいよ」  将平が裕二の手を両手で握り込み、心底嬉しそうに微笑んだ。 「ぎゅってしてもいい?」 「あは、よかよ」  将平が裕二に思い切り抱きついてくる。裕二は、重圧に一瞬上半身がふらりとした。 「ふふ、お前重たかぁ。……ばってん、全然違うデザインば買うてしもうたね」 「だって、俺は裕二さんに似合うと思って選んだから……俺のことなんて考えてないよ……」  自分だってそうだ。将平が、鼻をすすって、裕二を強く抱きしめた。裕二は、将平の目尻をそっと親指で撫でた。親指が、少し濡れた。 「……泣きよる、将平」 「ごめん、嬉しくて」  将平が、裕二の口にキスをする。将平が泣きながらキスをしているのを見ていたら、裕二もなんだか鼻の奥がツンとして、視界が歪んだ。 「……ねえ、お揃いの結婚指輪を買いにいこうよ。コレと重ね付けできるのがいい。一緒につけたい、コレも大事なものだから」 「あは、よかよ」  これ以上ないほどの多幸感に包まれる。心が、幸せだけで満ち溢れていた。将平が、ゆっくりと裕二を布団に押し倒す。 「……っ、将平、やっぱりまだすると?」 「いけない?」 「…………は、俺がいかんて言うと思っとる?」  裕二がにやりと笑って、将平の首に手をかける。将平は身体がゾクゾクとして、思わず口角が上がった。 「……愛してるよ」  将平は優しい声で呟いて、裕二の唇に甘くキスを落とした。

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