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第7話
触れにより王城の周りには多くの民が集まっていた。
銅鑼の音と共に城壁の上より乾物や菓子の入った民への施しの布袋が雪のように降り注ぐ。皆、競うように両手をあげてそれを受けとった。
「慈悲深い王よりの賜り物じゃ奪いあうは不敬と心えよ! 譲り合い皆ありがたく受け取って偉大なる王に感謝し精進せよ!」
兵の言葉に小さな童や老婆も包みを拾うことが出来、皆笑顔で新しい王を称えあった。
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城の中庭では臣下を集めての酒宴が催されていた。大きな篝火の周りには席が設けられ、宮廷料理や振る舞い酒が次々と運ばれている。
皆を見渡すように作られた王座には第十三代の王となった耀讃眩子 が鎮座していた。
大きな体躯。長くうねった髪と射るような瞳は漆黒。浅黒い肌を持つ。胸には大きな紫尖晶 の首飾りをつけていた。
玉座に決して座することが許されなかった漆黒の姿なれど、この一年、治水や国境整備、貧しい者への施しなどに加え、歴代の王が成し得なかった寺院や貴族などの干渉を排除し民から信も厚く、国政は磐石と言えた。
「我が王となり一年。皆よく仕えておる。今宵は思う存分、ふるまいを受け取るが良い」
『偉大なる我が王よ! これよりも永遠に変わらぬ忠誠を固くお誓い申す!』
招かれた臣たちが一斉に両腕を組み頭より高く上げ、頭を低くした。
この一年、武を誇るだけであった臣も国を収めるための法や歴史を学ばせておる。貧さゆえに学を学べなかったことを恥じ貪欲に知識をつけておるものも少なくない。安定した地位と禄に顔つきも変わり戦国の武将から平世の臣となりつつあった。
日が落ちても篝火が高く焚かれ豪華な酒宴は続く、大いに賑わい、宮中の女官は忙しなく酒を注いでまわっていた。
「鳥をここへ……」
酒宴も酣 の頃合い。手をあげ鳥を呼ぶ。
篝火の前に姿を現した金の鳥を初めて目にする者も多く、その人ならざるが如くの姿に酔漢どもより低い感歎の声が上がった。
金糸の如き髪。篝火のように揺れる黄金の瞳。透き通るような白い肌。
真白な絹の衣を纏い黄金で作られた冠を称え、胸には黄金の胸飾り手首足首にも金の環を幾重にも身につけていた。
「興じゃ。舞うがよい」
命じると深く頭を下げ女官たちが奏でる楽の音とともにシャラシャラと黄金の宝飾を鳴らしながら鳥が舞う。
酒宴の喧騒は止み、その場におるものは皆魂を吸い取られるが如く身動き一つせず、この世の者ならぬその姿をただ見つめておる。
「こちらにこよ」
舞い終えたというのに水を打ったように鎮まり返っておる静寂を破り鳥を手招いた。
皆が茫然と見つめておる。寄り添わせ我のためだけに酒を注ぐ姿を見せることは王の威光と権力を知らしめるに十分であった。
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