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第13話
「鳥よ……我は誠に不義の子にあらずか?」
信じておらなかった。いや決して信じてはならぬこと。しかしずっと心の内に澱のように消えずであった。もしその忌まわしきことが真実であれば我がこの国を統べることも大義を抱えて多くの命を奪ったことも大罪でしかあらぬ。
「……長くお苦しみだったのでございますね。わたくしの全てを賭けて証します。あなた様は間違いなく父君様のお子でございます。姫様は父君様をたいそう深く愛しておられました。もちろん父君様もでございます。ご懐妊の知らせにお二人ともそれはそれは喜ばれ父君様は母君様の元に日々通われその身を労わる様子は大変微笑ましゅうございました」
思い出し幸せそうに微笑む鳥の顔が一転した。
「…………ゆえに姫様がお亡くなりになった時の父君の悲しみはあまりにも深く、あれほど熱心でございました政事にもまったく関心を無くされ憔悴し王宮に篭られてしまったのでございます」
鳥はまた同じように我の額に白い額をつけた。
『鳥よ。教えてくれ! 麗黄は我を裏切っておったのか……我と麗黄との間に黒い赤子が生まれるはずもない! なぜだ! なぜ我を裏切ったのだ! 麗黄! なぜ我に何も言わず死んだ! 言い逃れが出来ぬからなのであるか!?』
鳥に詰め寄り涙を流し嘆く父の姿。揺さぶられた肩に強く食い込む指より痛みが走った。
「姫様の美しき心のありようを言葉を尽くしお伝えしましたが、父上様は嘆き悲しみは凄まじく姫様を信じ切れませぬでした。そののち行き場のない怒りが姫様のご実家に向かってしまったのです。わたくしはあまりに脆弱であのように酷きことをお止めすることが出来ませぬでした」
母の実家は取り潰され全ての者が弑された。屋敷は跡形なく姿絵すら残っておらなんだ。
「……どうか、母君をお信じ下さいますよう……姫様の宮には男子はひとりもおらず、もちろんわたくしも遠い宮に離れて暮らしておりました。そのようなことが起こるはずもないのです。何より姫様は大変誇り高い方。不貞を働くなど決して考えられませぬ。何より姫様が父君だけを深く愛されておりましたことはわたくしが一番よく知っておるのです」
「今一度…ご無礼を……」
『金華よ。我の無様な腹を見るがよい』
大きな腹を撫でながら、幸せそうに笑う母の姿。
『健やかに生でてまいれ。母は首を長うして待っておるぞ。決して乳母などに育てさせぬ。我が乳を与え毎夜添い寝をするのだ。おのこであれば多くの民を守る強き心を……ひめであれば夫君を支える優しき心をお教えする』
「わたくしの一番愛おしゅう思う姫様のお姿でございます」
額を離し鳥が微笑む。
再び涙が流れた……決して再び母上様を疑うことはない。
長い間。心の臓に泥のように溜まっていたものを吐き出せたような心良さを感じた。
美しき金の鳥よ……。
黒き者と蔑まれ惨き仕打ちにそれ以上の惨きが正義。王の子であるという寄る辺だけを頼りに這い上がってきた。あれほどの恨み。あれほどの嘆きがそなたと居ると泡沫のように消えてゆく……。
引き寄せ抱きしめると桂花の甘い香りが立ち上った。なんという芳しき香り。
……触れても良い。我は鳥と睦みたいのだ。
我はやっと我の心を知ったのというのに、そなたを手放さねばならぬ……。
我は我である前に母と兄より命と運命を授かったこの国唯一無二の王であるのだから……。
今だけであると細き体を強く抱きしめた。
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その年の暮れ
国中の祝福を浴び王の婚儀が盛大に執り行われた。
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