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第14話

 開門するのを待てず僅かに出来た隙間より中に入り込み鳥の宮まで我が先と二人の王子は一目散に走って行きおった。 「金華ーー!」  鳥を捉え足元に纏わりついておる。 「おおきゅうなられましたな」  足元を取られた鳥は笑いながら王子達を見遣った。  授かりし王子は我と同じく双子であった。  王妃は嘆き自らの咎と涙ながらに謝りおったが、これこそが憎き悪習。これを機会と国中に触れを出し古き慣習を信じ双子を弑する者を厳罰に処するとした。号令後、山中や床下に身を潜め暮らしていた者が幾人も家族の元へ帰れたと聞いておる。  王子は共に黒髪であるが瞳は兄王子である誉高(ほうこう)が紫陽。弟の誉栄(ほうえい)は碧の瞳。これは祖父母の血ゆえに違いない。 「今よりここに通わせるゆえ。よろしゅう頼む」 「な……何をおっしゃられておられるのです? そのような大役務まりませぬ」  思うた通り鳥は顔色を変えおった。 「何も畏まることはない。そなたが慈しんでいる童達と同じに接すれば良い。間違うたことをすれば尻を叩いて構わぬ」 「そのようなこと! できるわけもありませぬ」 「ここを頼り来る貧しき童達と同じ粥を与え同じに扱うのだ。民の真の姿を見せよ。賢王となるためにこれほどの尊き学びの場はない」  これは王子達が生まれし時より決めていたこと。体の鍛錬もさせるが何よりも将来王となるべき心のありようを学ぶには鳥の元が一番であろう。 「勿体無いお言葉、誠心誠意勤めさせていただきます」  ここに出入りを許しておる童の齢は元服しおる13の年まで。そののち望む者は本宮で士官、女児であれば宮仕えなどを許しておるが皆賢く勤勉でよう働きおる。震えながら我に鍬を向けた李了(りりょう)などは今では士隊長を務めておる。 「そなたは少しも変わらぬな……」 「そのようなことはございませぬ。皆様より遅いとは言え歳を重ねております」 「王においてはますますご壮健であられ国内での良政を聞き及び大変誇らしゅう思うております」 「この国はあまりに広い。まだまだ行き届かぬ」 「十分に成しておりまする。急ぎ過ぎずにご家族のためにもどうぞ御身を大切になされませ」  香り良い茶と共に菓子が供される。  いつぞやに食した牛の乳でできたものと同じようだが甘い味がした。 「樹木より取り出した液を入れて甘うしております。季節により果物や木の実を入れたりもしておりまする。童達が好むので、よう作るようになりました。それぞれの生まれた日には土産にして家に持たせております」 「生まれた日であるか?」 「わたくしの国では必ず生まれいでた日に菓子を作り家族で祝ったものでございます」  もそもそと甘い菓子を口にする。この様に甘露な物を口にしておるのに何を苦う感じておるのか……。 「……そなたは嫁を取らぬのか?」  前よりずっと言わねばと思っておった言葉をようやっと口にできた。誠は言いとうない。しかし鳥とて家族を持てば幸せに暮らせよう。誰もおぬ自らの一族を再興することもできる。 「……そのようなこと考えたこともございませぬ」  己と睦んだ者が触れることを安じておるのかも知れぬが女子(おなご)であればまた違うやも知れぬというのに……。 「寂しうはないのか?」 「わたくしには爆ぜ玉のような童たちがたくさんおります。毎日騒がしゅうぐらいでございます」  鳥の視線の先を見ゆると王子と童達が庭で転げるように遊んでおった。 「そうか……」  我は鳥が頷かぬことに安堵しておる。誠の心で鳥の幸せを願ってやれぬ。なんと醜き心持ちだ。 「王妃様においては度のご懐妊とのこと。大変おめでたく、お祝い申し上げます」  鳥は優雅にこうべを下げ屈託ない笑顔で祝辞を述べる。  頭を冷やせば、我が想うているのみであって鳥にとって我は愛しき者ではない。 「……王妃が会いたがっておったぞ」 「光栄なことにございます。ご機嫌麗しい時にご尊顔を拝しお祝いをお伝えできれば嬉しゅうございます」 「いつでも本宮に来るが良い」  王子達を託し鳥の宮を後にする。  鳥は忘れたと申したが我が惨きことをした憎き男であることは永遠に消せぬ。母の子であればこそ鳥は我を許したのであるのだから……。

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