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第15話
「金華お側に参りました」
まさかこのような御目通りになるとは……王妃様がご出産後の日より悪く床より我を呼んでいると伝えられ急ぎ本宮に馳せ参じた。
「……まいったか金華、近う……」
寝所より聞こえる声は、か細くお体がだいぶ悪う様子が伝わってきた。
「……よう来た。間に合わぬかと思うたぞ」
「何を気弱なことを申されます……」
「妾のことが妾が一番よくわかっておる。余計な慰めは要らぬ。とくと聞くが良い」
王妃様の強い意志が伝わり言葉を継げずお側近くにより、ただ頭を下げた。
「この度、授かった姫。お二人の王子をそなたに預ける。後見となり見守うておくれ」
「……そのような大きなお役目は……」
「これは頼みではない。王妃よりの命である」
強い口調。もはや死をも覚悟なされている王妃様に何も申せぬ。
「……とくと承りました」
「笑えるの……結局そなたを頼らねばならぬ……今際の際じゃ……決して言わぬと思っておったこと申すことを許しておくれ。妾は悔しゅうて、悔しゅうてならぬ。わかっておるのだ。そなたが居ねば妾は決して王妃にはなれぬであった。そなたよりの恩恵を受けたゆえ、王のお側に上がることができ愛しき子も授かり国母ともなした」
王妃様は何をおっしゃっているのか?
「王は貴族の娘には珍しい妾の栗色の髪と瞳をことさら気に入って下さった。妾は夢心地でお側に上がったが初めてそなたにおうた時にそれがなにゆえか解した。似ても似つかぬが妾にそなたの姿を追うておられたのだ。あの苦き思いがそなたに分かろうか」
「……そ、そのようなこと!」
あるわけもない。王は我が穢れた身、呪われた身であることをよくご存知である。
「王である眩子様が一人の側女も置かず妾だけを愛しんでくださったのもそなたが居ればこそ。なれど人とはなんと欲深いものであるのか……立場もわきまえずもっともっとと願うてしまう……わかっておるのにそなたが妬ましゅうて妬ましゅうてならぬ!」
しかし否定を許さぬ口調で王妃様は淡々と言葉を紡ぐ。
……ありえぬことである……衝撃に涙が溢れた。
「……美しいの……せめてそなたが心根だけでも醜きものであったなら心より憎く思うこともできたであろうに……」
「……お……王妃様は思い違いをされております。そのようなことに思い患わずどうぞ気を強くお持ちくださいませ。王子様方、姫君も優しき母がお側におねばなりませぬ!」
「……それに比べ、妾はなんと醜く哀れな身であるか……」
「王妃様!」
「……用事はすんだ。下がりゃ!」
「母上様ーー!!」
王子達が泣きながら寝所に入ってきて母のそばによる。その姿を拝しながら真白な頭のまま王宮を後にした。
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