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第21話
ふと、どこからか扉を叩くような小さき音がした。
「金華! 金華!」
覚えのある声。王子様方のお声である! 一体どこから?
耳を澄まして探ると床下よりの音であるようである。音の鳴る方へ近づき床板を剥がすと王子達が埃塗れで我を覗いていた。
「な……なんと言うこと!」
慌ててお二人の御身を引き上げる。泥のついたお顔を拭き埃のついた着物を払った。
「金華ーーーー!!」
大きな瞳より大粒の涙を流しながら我に縋りついてくる。もう会うことは叶わぬかもと思っていたその愛しき姿に思わず我も涙が流れお二人の小さな体を抱きしめた。
しかし……。
「このような場所に来てはなりませぬ。すぐにお帰りくださいませ」
誰も入らぬように兵に見張らせておるこの部屋に入ったとなれば王子様たちであれど王よりどのような罰をお受けになることになるかわからぬ。
「金華! 違う! 先生! 先生は清き目で物事を見よとおっしゃいました。お教え通り我らはずっと耐え懸命に見ておりました! なれど我らはどうしても父上様が正しきとは思えませぬ! このような日も当たらぬ場所に先生を閉じ込め誰にも会わせぬなど鬼の所業じゃ!」
お二人はさらに涙を流されて縋りついてくる。二人の王子は父を信じきれぬことに嘆き泣いておられる。なんと痛ましい。
どうお話しすれば良いものか…。
我は決して不幸などではないというのに……。
しかし、我は我のことしか考えておらぬであった。
優しき母上様を亡くされひと月も経っておらぬ淋しきお二人のお子たちから正しき姿の父上様まで奪ってしもうていたとは……。
「誉高様、誉栄様。泣かないでくださいませ。きっと父上様と仲直りいたしましょう」
「誠か!」
「はい」
言うと笑顔になり再度我に抱きついてくる。
なんと愛しき、優しきお子らであろう……お二人の治世になればこの国は永く平和が続くに違いない。
いつまでも我欲で王妃様のお心を裏切り、王のお心を乱し、お子達から良き父上様を奪うわけにはいかぬ。
我の醜き心を吐露すれば王はなんとするであろう……お怒りになるだろうか……煩わしく思われもうここには通われなくなるやも知れぬ。
わかっておるのです。王は己が悪となり我が命を粗末にせぬようにして下さっていることも……きっと王子様方にも何も言わず自らを悪者にしておるのであろう……。
我は思いがけず手に入った幸福に目が眩み愛しき方々が苦しまれておるかもしれないことから目を背けておりました。
なれど……もう我のほんとうの心を王にお伝えせねばならぬ。
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