32 / 49

第28話 ※R

 「ならぬでございましょうか?」   我の上掛けを外しながら金華が願うてくる。   民よりの謁見。この間十日に一度を二日にしたばかりなのにさらに三日にするとは。 「申し訳ありませぬ。精一杯努めさせていただいておるのですがいつもお会いできぬ方々が肩を落とされてお帰りになるのがあまりに切ないのでございます」  神の宮でのこと、なるべく口を出すまいと決めておるが、日が頂点に登るまでの〆の刻も日が落つるまでに延ばし、その間ろくろく食事も取らずに謁見していると亜藍よりの報を受けておる。他の日も休息している訳では無い。童たちへの施しや王子達への教育も変わらず続けておると言うのに。 「眩子様こそ連日遅うまでのお勤め、さぞお疲れでございましょう」  見上げながら我のことまで労おうてくる。その健気で愛しき姿に否と言えようはずもない。 「そなたがよければそれでよい。しかしそなたの体が健であればこそ全てが成せるのだ。それをしかと心得よ」 「ありがとうございます。深く心に留め努めさせていただきます」  寄り添う金華が微笑み我の器に酒を注ぐ。神の宮の評は上々……既に民の心の拠り所となっておるようである。我は朝より識者達と官司登用の制の取り決めであった。国の各所に学びの場を作り望む者には身分を問わず学ばせ官の道を開く。商売人の学びの場もおうた方が良いであろうな……弱き民に自らで生きる力、搾取されぬ暮らしを与えねばならぬ。  忙しい身であれどこのように充実した日々があったであろうか……。  国は日々整され強くなっておる。常に満であった獄の罪人の数も減り続けておる。  全てが望み通りに進んでおる。王子達が元服しおるまでに必ず強き良き国を築いてみせよう……。 「そなたも呑むがよい」 「ありがとうございまする」  硝子の器に冷酒を注ぎ鳥に渡すと美しい月が映ったそれを鳥がすぃ……っと口にした。 「そう言えばそなたが酒を口にするのを初めて見たの」 「はい。わたくしもいただくのは初めてでございます」 「まことか? 酒はあわぬ者もおる。変わりないか?」 「大丈夫でございます。なんとのういただく機会がなく口にしませぬでしたが、なんとも芳醇で美味しゅうございます」 「そうか…大事ないなら好きなだけ呑むが良い」  いつまでも我に気を使い畏まることをやめぬ。  酒で少しくつろぐのも良いかも知れぬな。   + ++ + ++ +   「眩子様?」  初めて口にした酒でもあり、体も疲れておったのであろうしばらくして鳥は我に寄りかかり落ちるように寝てしまった。神宮での務めも全て初めてのこと。心も体も疲れておるに決まっておる。その軽い体を抱き抱え寝所に横たえた。     「ここは?」 「寝所である。初めての酒でさすがに酔うたようだの。気分は悪くのうか?」 「はい。申し訳ございませぬ。王の御手を煩わせるなど……」 「ここでは我は王ではあらぬ」 「では何でありますか?」  鳥がころころと笑いながら聞いてきおる。やはり酔うておるのかいつもより心安う様子である。 「そなたとおる時は民草と同じ。何も持たぬ身である。我もそなたに頼り縋り願い叶えてもらおうかの」   「何をお望みでございますか?」 「我より消えること許さぬ……」 「それはご命令でございます」  華のように笑いながら我を見上げて抱きついてきおる。細く儚く美しいその姿。胡蝶の夢が如く消え失せてしまうのではないかと王でない我はなんとも小さく不安でならぬ。 「眩子様こそ我より消えれば我は生きておられませぬ」     金の一族は我々より長寿である。人の命の長さは天命ではあるが、常であれば我が消えるのが先であろうな。 「眩子様がおらねばわたくしはおらぬのです」  我の心の内を覗き見るかのごとき金の瞳。民よりの謁見を初めてより金華はよりその神性を増したように感ずる。金華の姿を見た民は皆、尊きと涙を流し姿を拝すと聞いておる。その体を腕の中に抱き、睦言を聞くなんという優越であろうか。    真白い肌に触れ、手のひらで余すところなく撫で上げる。金華の体には不思議なことに全く傷跡が残っておらぬ。いかに貶めてもけして穢すことが出来ぬその気高き魂の如くである。酒のせいか少し熱く、淡く桃色に染まっておった。  「……ふっ……」  胸の飾りを摘むと金華の体が跳ねた。いつまでも慣れぬ様子で羞恥し、耐えるように睫毛を伏せ我に縋りつく幼気けな姿が堪らぬ。我の体にぴたりと体をつけさせ立ち上がった物を間を擦り、香油のついた指を中に入れ捏ね回すともう耐えられぬと頭を振り溶けた黄金の瞳で恨めしげに我を見やる。 「眩子様……」  吐息で我を呼ぶその唇を塞ぐ。中に入れた指をかき混ぜ良き場所を叩きながら互いの熱り立った物を強く押し付けた。 「……ん……んっ!!」  唇を塞がれたまま金華の体は痙攣し子種を吐いた。身を離し我もその天鵞絨のような白き腹の上に子種を出すと金華はそれを指ですくい赤い舌で舐め上げた。    その姿のなんと妖艶。  妖魔なのか……神なのか……その人ならぬ姿を征する愉悦に頭が蕩となる。    このような睦事。どんな芳醇で強き酒もとうと叶わぬ。  

ともだちにシェアしよう!