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第29話
「金華ーー!」
「どうなされましたか?」
童達と遊んでいらしたはずの誉栄様が慌てた様子で厨に飛び込んでいらした。手も足も泥だらけである。
「誉高がいないんだ。みなで探していたら誰ぞがこれを金華に渡すようにって……」
誉栄様の手より書状が渡された。屋敷には童以外の者はおらぬはず……ぞくり……と嫌な感が背中を駆け抜け、急ぎその書状を広げ文字を追った。
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金の楼主様
誉高様はお預かり致しました
決して無体なことは致しませぬが
誰にも他言せずおひとりで
北三条の納屋へ起こし下され
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持つ手が震え書状が床に落ちる。
やはり誉高様は拐かされたのである!
王にお話すべきか……しかし話せば我だけで行くこと決して叶わぬであろう。
絶対に誉高様の身に危害及ぶことあってはならぬ!
一刻も早く行かねば……目的は明らかに我である。
幼き身になんと酷きこと……今頃さぞかし心細く辛うでおられるであろう……。
「誉栄様。わたくしをお助けいただけますか?」
懸命に幾度も頷く誉栄様の小さき体を強く抱きしめる。我の命に替え必ず兄上様を取り戻して見せましょう。
+ ++ + ++ +
童達が王宮より去る時は必ず門番の兵士に王の証を提し下城とする。その証と共に楼主よりの書状が手渡された。
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畑で多くの作物が採れたゆえ
この者らへの施しとして持ち帰らせる
台車を引く馬と共に通して
やってくだされ
金華
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「確かに楼主様の筆と印である。通るが良い」
門兵は慣れ見知った童を疑うことなく門を開ける。その門を綱を引き数人の童達がくぐり下城した。
王城よりしばらく、林の中で童達は台車を止め馬を繋ぎ周りを見回す、自分たちより人が居ぬことを確かめると、台車に乗った荷を数回叩いた。しばらくして、その中より髪を短く切り布で顔を覆い隠し民と同じ姿をした金華が現れた。
「……皆、ようやってくれました。心より感謝いたします。これより気をつけて家に帰るよう……」
「先生はどこに行かれるのです?」
童たちが詰め寄る。
「我のことは心配せずともよい。願いばかりですまぬが家に帰っても決してこのこと口にせぬでいてくれますか」
「もちろんでございます!」
大事ないと言っても皆、涙を堪えておる。子は皆、感強く聡い。事情はわからずとも感じるところがあるのであろう。
再び会うことは叶わぬであろう愛しき者達……皆健でいるよう心の内で願いその姿を抱きしめた。
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