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第33話

 誉高の証、精鋭達の読みより光天教がもっとも色濃いとの決となり、夜明けを待ち兵と共にその本山へと向かう。まもなくとの時、鈍い音が聞こえ足元が揺らいだ。馬が怯えて前足を上げ高く嘶くと歩みを止めてしまう。  何事か? と下馬し兵と共に歩いて本殿に入る。足元より感じる震は止まらず、ずっと続いていた。  悪き予感がする……。  中に入ると、さらに揺れは強く、その場におる者皆、地に伏し、なんとか逃げようと惑っておった。一緒に参った兵も足元を取られ転げておる。  その先に見えるは金華の姿。  地にひざまづき頭を垂れ動いておらぬ。しかしその周りの地は波打ち、バキバキと一際不気味で音を立てておる。明らかに、そここそが、この震の核であろう。  揺れる地に足元を取られそうになりながらその核へ進む。何がおうたか解らぬがなんとしても止めねばならぬ。    割れた地面を飛び越え近くにより抱きしめ拘束されていた綱を切った。その身は暖かく確かに生きておる。 「金華!」  しかし呼びかけても我と気づかず、涙を流しながら宙を見つめる目は焦点があっておらぬ。 「……我の……我のせいで…… 御祖様が……」  目の前に老婆が倒れておった。金華の代わりに弑されたか?  しかし……このままでは……。  「戻ってこよ!! これより人を殺めること許さぬ!」  体を揺らし名を呼ぶが、その様子は変わらず地鳴りが止まらぬ。先方には大きな亀裂が不気味な音を立て恐ろしい速度で伸びている。このままでは民家を飲み込む。例えそなたが神であっても罪のないわが民を無下に弑すこと看過出来ぬ! 泥を飲み込む心地で小刀を取り金華に向けた。  「……楼主様……見送ってくだされ……我は暖かい場所に行きまする……」  声に気付き、下を向くと老婆が金華の足に縋りついておる。その姿を目すると金華の目に光が戻り地鳴りの音が小さくなった。 「御祖様!」  血塗れの手を取り、身を起こすと老婆をかき抱く。 「御祖様……どうか、どうか、お気を確かにお持ちくだされ……」  金華の目より涙が溢れ老婆の顔にぽたぽたと落ちる。老婆は宥めるようにその萎びた手を金華の頬に差し伸べた。 「ほんに何も怖くありませぬな……まして楼主様の腕の中で旅立てるとは……なんという贅沢で、幸せな死でありましょうか……」  老婆の手がゆっくりと地に落ち瞼が閉じる。その表に苦はひとつとなく、穏やかで満ち足りておる。   「うーーうーーーー」  しかし、なんという惨き仕業か……老婆を強く抱きしめ体を震わせ金華が泣いておる。  四方に目を向けるといつの間にか地鳴りは止み、地割れも止まっておった。  崩れた高台の側で狼狽え、這い蹲っておる教祖の虞澄則の姿があった。我と目が合うと、もごもごと口を動かしておる。   「次代の王を拐し、我が神宮の主を晒し者とし。罪なき我が民を弑した罪。もはや信仰の徒とは見なさぬ! これより死をもうて償うがよい!」  背負いし大刀を抜き、その姿に向かい投げると、それは虞澄則の体を抜け、倒れた体と共に地面を貫いた。 「偽りの教徒を全て取り押さえよ! 一人も逃すでないぞ!」 『は!』  号すると兵が一斉に動き、教祖の死に動揺し既に統制を無くしておる信徒達を容易く取り押さえた。

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