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第18話 side金華 ※R

「何用で参った」  王はまだお怒りであられる。身の程もわきまえず、あのような無礼を働き自らもう会わぬと罵声を浴びせておきながら数日もせぬ内に、のこのこと御前に顔を出すなどなんと恥の知らぬことであるか。然の(ことわり)である。   「王にお願いがあり参じました」  しかしどうしてもお許し頂かねばならぬ……我はもう自らが恥ずかしく、どこにも身の置き所なく御身より少しでも遠くに離れたいのでございます。 「なにの願いか?」  先の無礼を責めず我に向き合うて下さる。ますます申し訳のう心地となりご尊顔を拝すこと叶わず頭を深く下げた。 「わたくしを王宮より去らせてくださいませ」 「……な、何を言っておる?」  王はやはり呆れておられる。しかしなんとしてもこの願いお伝えせねばならぬ。 「我の宮を頼りくる童には既に申し伝えております。お許しをいただければ本日にでもここを離れとうございます」 「……城下に頼るものがおるのか?」 「おりませぬ」 「そなたは自分の事を何もわかっておぬ。そのなりで城下に下りればたちまち拐かされてしまうであろう。再びそなたを狙うやも知れぬ四名の者もおる」  そうであろう……なんの寄る辺も持たぬ非力で異形の姿の我など皆様の中で生きおおせるはずもない。しかしそれで良いのでございます。即に死する道であっても我はもうこれより多く御身にこの浅ましき姿を晒しとうありませぬ。 「……構いませぬ。そこで息絶えるならそれがわたくしの命運でございます」  何の御恩も返せず、ただ御身より逃げる卑怯な我でございますが、どうかここより消えることお許しくださいませ。遠くよりおよそ命消えたのちも御身の永代の安をお祈りいたしております。涙堪え頭を深く下げた。   「……許さぬ! 嬲りものになっても良い。死しても良いというのなら我に囲われるがよい!」  大きな音とともに目の前に灯籠が倒れ落ちてきた。思わぬ大声と仰せに体の内が震え足が竦む。なんということ! それだけは絶対にならぬことである! 「……嫌でございます!」  逃げねば! 八つ裂きにされても構いませぬ。けれど我の呪われた身で御身を貶めることだけは絶対になりませぬ! 震える足を動かし踵を返すも即に捉えられギリギリと両の手を引き上げられ部屋に放り込まれた。 「そんなに我の元におるのが嫌か? 城下に下りればそなたなど、ひとたまりもなく獣のような男に嬲り殺される。そんな者よりも我の方がおぞましいということか!!」  否と言う間もなく、衣引き裂かれ御身の腕の中に引き寄せられた。 「いけませぬ!」  即に、この命絶たねばならぬ! 思い切り舌を噛むと口の中より血が溢れ落ちる。はたと気づくと我が力の限り噛みちぎったのはなんと御身の指であった。引き出された手の傷は深く血が床にまで流れ落ちておる。 「……な……なんということ……」  まさか御身を傷つけてしまうとは!  王は怒り猛り我に轡をかけた。お願いでございます! これ以上御身を毒する前にどうぞこの身を弑して下さいませ! 口を塞がれ願いを言の葉にすること出来ずただ涙が溢れた。 「まさか、禁忌を破ろうとはの……」  獣が威嚇するかの如く低く太いお声。心より我を蔑し鋭き眼差しで睨まれておる。それで良いのです。我の毒が御身に災いをもたらす前にそのお心のまま、どうぞ我を縊り殺して下さいませ。  血まみれの手が我に触れる。流れ落ちる血が我の体にべたりとつき御身の熱き命の脈がどくどくと感じられた。そのまま引き寄せられ痛いほどに抱きしめられると体中を吸われ喰らわれる。  熱い……触れていただいた、そこかしこが火傷の如く熱く、度に心の臓が跳ね上がる。 「こんな物まで白く美しいとはの……」  立ち上がった我を見て王が揶揄された。御身に仇をなすかも知れぬのに、なんと醜く淺ましきか……触れていただくこと……嬉しゅうてならぬ。  大きな御手で包み込まれ擦り上げられる。ただ恥ずかしく目を閉じた。  なんと優しく心地よい。  見ないでくだされ……このように醜き我を……どうか御身に災いをもたらす前に弑して下され! 「随分と淫蕩な体であるの。憎き男に嬲られておるのに立ち上がり喜んで蜜を出しておる」  嘲笑するかのお声。  憎くなどありませぬ。御身は我の何より愛しきであるのです。  なんとしても逃げねばならぬのに何をも出来ぬ!王の御手は力強く我の非力では押し戻すことも叶わぬ。    なぜあの折のように轡を外せぬ! 声を出すこと叶わぬ!  姫様を貶めた者への怒りで成した異形の力を使うことなぜ今叶わぬのか!  これが我の本の心。愛しき御身を害すかも知れぬのに我が身に触れていただくこと嬉しくてならぬのだ。  王の御手が後ろに入り柔らかく揉みしだかれる。いけぬのに心地良くて気が遠くなりそうになりながら逃げようとするも何をもなせぬ。このままではまこと王を貶めてしまう!  首筋に王の熱き息を感じ御身も興しているのを感じる。嬉しくてたまらぬ。その熱き賜物で貫いていただきたくて浅ましく腰が揺れた……御身を滅ぼすというに体中が熱く、喜びいうことを聞かぬ……もはや抗すること叶わぬとただ涙が流れた。  しかし我の中に入らず足の間に熱き物を入れそのまま強く揺さぶられた。  握り込まれ、体中を強く弄られながら幾度も幾度も揺さぶられる。    熱い! 熱くて嬉しくて幾度も気をやってしまう!  何も考えらぬ! 嬉しゅうてならぬ。  我の背に熱き子種が掛かるのを感じると背より御身が強く抱きしめて下さった。  まるで愛しき者のように……。  + ++ + ++ + 「今日よりここで暮らすがよい」  王が轡を外して下さった。  声色は変わっておらぬ。ご無事なのであろうか……。  なんと痛々しい……御手の傷は捲れ、そこかしこ惨き血の跡が残っておる。  姫様……申し訳ありませぬ。全ての咎は我にありまする。  どうか眩子様のお心に災いなきよう……どうか、どうかお助け下さいませ。 「そなたが食事を取らぬならその数だけそなたの慈しんだ童を崖より投げ捨てる。そなたがここより逃げたり、自死すれば子らは皆殺しとする。望むならともに死すがよい」  慈悲深き王とは思えぬ言の葉。    やはり変わられてしまったのであろうか……この国の偉大な王。愛しき御子様方の優しき父上様。そして我が命より大事なお方を……自らせいで……。  身の内が冷たくなり、目の前が昏くなる。  寝所の上で深く頭を下げると熱き涙が溢れた。  

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