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第2話 衝撃

 おじさんの運転する車は、商店街を抜けて住宅街を通り、しばらく走ったのちに、大きなゲートがついた場所で止まった。  おじさんが警備員さんと軽く話をすると、業者用の駐車場に案内される。駐車場にとめると、大きな台車を2台おろし、弁当が詰まったケースを台車に載せ替えていく。そしてゆっくりと台車を押しつつ、搬入口から入る。入り口の所で、名前を記入して、STAFFと書かれた首からかけるストラップを受け取った。  スタジオの中は、意外とキレイで広かった。おじさんは何度も来ているからか、迷いなく進み、エレベーターホールへ。そして3階でおりると、またひたすら廊下を歩いていく。ここら辺ではスタッフの人や出演者なのかなというような派手なメイクをした人にもたくさんすれ違った。  俺もどんな芸能人がいるのか、周りを見回してみたかったけれど、弁当のケースが落ちたら大変だから、ひたすら台車を押すことに専念していた。おじさんが「康ちゃん、着いたよ」と声をかけてくれたので、ゆっくりと台車を止める。そしてスタジオ2と書かれた、分厚くて大きな扉を開くと広い会議室のような場所に出た。  スタッフの人が寄ってきておじさんが、あれこれと説明している。すると会議室の机の上に置いてくれと言われたので、ケースを一つずつ並べていく。メインが魚か唐揚げかで分かれているので、それが混ざらないように注意を促すメモ紙を貼る。250個ものまだ少し温かい弁当は、それだけ多くの人が今もここで働いている印なんだなとぼんやり思った。  作業を続けていると、奥から出てきたスタッフの人から「何人かの出演者の方がスタジオの控室で食べたいらしいので、持っていってもらえませんか。20個もあれば大丈夫かと思いますので」と頼まれた。  おじさんに「俺が持ってくよ」と言って、魚弁当と唐揚げ弁当を10個ずつ空いたケースに詰めて、よいしょと持ち上げる。そのまま先導するスタッフの人に付いていく。  さらに扉を何枚かくぐると、壁一面真っ白のスタジオについた。スタジオの中央には普通の一軒家が建っていて驚く。隣には部屋だけのセットもある。どうやらドラマの撮影場所みたいだ。  少し離れた所にまた会議室の長机がいくつか並んでいる。そこには軽食や差し入れと思われるお菓子がたくさん置かれていた。そこへ弁当も並べ、魚弁当と唐揚げ弁当とそれぞれに書いたメモも添える。  よし、俺の仕事は終わりだな。案内してくれたスタッフの人に戻りますと伝えて、出口に向かおうとした時、急に賑やかな話し声が耳に届いた。 「やっだ〜アダム、それ酷くない?」  高音で可愛らしいを装った女の子の声と、それにつられて笑う人たちの声が、響いてきた。派手な衣装を着ている人もいるので、出演者の方たちかもしれない。失礼のないように脇に避けて通り過ぎるのを待つことにした。  先ほど女の子は、ベタベタと一人の男の人の腕を触っている。その触られている男の人を見たら、あっと思わず大きな声が出そうになった。慌てて自分の口を手で塞ぐ。  アダムと呼ばれた男の人は、なんとさっき家のテレビに映っていた"運命の男"だったからだ。俺があまりに挙動不審だったからか、相手も俺をチラリと見て、パチリと目があった。  その途端、頭にすごい衝撃が走って、いきなりパソコンがシャットダウンするみたいに目の前が真っ暗になって意識を手放してしまった。 ──── 「……っ………ここは……?」  重いまぶたをなんとかこじ開けると、白い天井が目に入ってきた。どうやら俺はベッドに寝かされていたようだ。まだ少し頭がズキズキするが、別に血が出ているわけでもないようだし、衝撃からも大きな病気かと思ったが、意識もしっかり覚醒しているし、手も足もきちんと動くからおそらく違うのだろう。  ここはどこかと思って身体を起こすと、横の椅子に座っていたおじさんが「康ちゃん、起きた!?」と言って先生を呼びに行ってしまった。ナースコールも枕元にあるのに、よほど慌てていたんだろう。おじさんらしいやとくすりと笑ってしまう。  その後、病室に来た医師には、突然スタジオで倒れたこと、意識がなかったので救急搬送されて、ここにいること、検査では特に異常は見つからなかったことを説明された。 「島本さん、以前にもこんなことはありましたか」 「いえ…初めてです。急に頭に衝撃が走って……気がついたらここにいました……」 「脳も検査したのですが、とてもキレイでしたよ。ただ、急に意識を失うのは普通では起こりにくいので、やっぱり何か原因はあると思うのですが……」 すまなさそうに説明されて、こちらも恐縮する。

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