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第4話 衝動

 しばらく相手と話をしていたおばさんの様子を窺いつつ、近くにあったカウンターの椅子に腰掛けて待つ。ようやく話を終えたおばさんが、 「康ちゃん……大丈夫なの?入院したって聞いて本当にびっくりしたんだから」と今にも泣きそうな顔で言う。 「そんな…。大丈夫だって。検査したけど何も変なところなかったって。おじさんからも聞いたでしょ」 「……だけど、バイトお願いしたのは、こっちだし。本当は体調悪かったのかしらとか心配しちゃったでしょ。」 「大丈夫だって!ピンピンしてるよ!ただ頭がすっごく痛くなっただけだから」 「頭……。なんだか心配ねぇ。これ以上、康ちゃんの成績が下がったら姉さんに怒られちゃうかも…」  おばさんが眉間に皺を寄せて、姉妹揃って変なことつぶやくもんだから、なんだか俺の脳みそをけなされているみたいで面白くない。 「平気だってば。それよりさっきの電話なんだったの?」と強引に話題を変えた。  すると、あっと思い出したかのように、おばさんは、電話の内容を教えてくれた。昨日のスタジオのスタッフからで、昨日俺が倒れた時にとっさに頭を床に打ちつけないように庇ってくれた人がいて、その人が俺の様子をすごく心配してるってことだったらしい。 「そんな人がいたんだ……俺、倒れる前後の記憶があんまりなくて。気がついたら病院だったから」 「そうなのね。電話してくれた人も、『助けた本人が心配のあまりなのか憔悴してる感じで。ドラマの主要キャストなので我々もなんとかしてやりたくて』って」 「そんなに心配されてるのに、こんなにピンピンしてて、なんだか申し訳ないな……」 「そんなわけないじゃない!元気でもう退院しましたからって伝えたわよ」 「じゃあ良かったよ」 「フフフ、不謹慎かもしれないけれど、康ちゃんのおかげで、また今日もお弁当注文してもらったしね。ありがとう〜」 「ははは。どういたしまして。また弁当250個?おじさん一人じゃ無理でしょ?俺も行くよ」  病み上がりなんだから、と言うおばさんの反対を押し切って、俺は今日もバイト代を稼ぐことにしたってうそぶいた。  本当は、もう一度あのスタジオに行かないと、自分に起こったことの理由がわからないんじゃないかって思ったんだ。自分の身体なのに、全くコントロールできなかったあの感じ。恐ろしいことが待っているような、それでも知らないままではいられないようなそんな衝動だった。

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