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第6話 抱擁

 思いっきりジョシュアさんの膝の上に座って、上半身も、もたれかかっている……。  ちょ、ちょっとなんなんだ、この状況は?!とパニックになりそうになりながらも 「ちょ……ジョシュアさん!!な、なんなんですか……?」と強めに言い放って睨む。  ジョシュアさんは、そんな俺の精一杯の睨みなんか平然と受け流し、「ジョシュア。ジョシュアって呼んでくれ。……俺のことは、本当に覚えてない?」と耳元で囁くもんだから、ゾワゾワゾワ〜〜と肌が粟立つ。 「ひゃっ……くす…ぐった…」 と身をよじって腕の中から逃げ出そうと試みるも、引き締まった腕の力は想像以上に強くびくともしない。 「なんでこんなに敏感なんだ……まさか番がいるのか……」 「なんなんですか、本当に!いませんし、離してください!」 「なんで涙目になってるんだよ…」  優しく指の腹で目尻を拭われて初めて、自分が泣きそうなことに気づく。 「本当に全部忘れてしまっているのか……」  ポツリと呟いた言葉は俺の耳にも届いたが、言葉としての意味は理解できなかった。  フーっとため息をつくと、ジョシュアは、 「康、今からちょっとした手品を見せる。怖がらなくて大丈夫だ」  そう言うと、ジョシュアは俺の目の前に、手の平をかざした。そしてゆっくりと自分の力を解放した。俺には力は見えないけれど、グググッと空間を制圧するような圧を感じたんだ。  そのまま小さな控室が、彼の力で満たされた時、突然それまで何ともなかった俺の身体にも異変が起き始めた。 「…っ……なんだ……これ」  自分の身体が、猛烈に熱を帯びてくるような初めての感覚。そして信じられないことに、俺の身体の中心がゆるゆると勃ち上がる感覚がする。強制的に発情させられているのだろうか。どんどん頭が動かなくなってきて、動物の本能が剥き出しになるような……。でも頭のどこかでは、理性的な俺もまだかろうじて残っていて、"逃げろ"と警告を発する。  こんな何もわからないまま発情させられるなんて、それこそ獣じゃないか。俺は、できる限りの力を振り絞って、自ら腕をジョシュアの背中に回し、抱きしめてやる。  それにハッと驚いたジョシュアの腕の力が一瞬、弱まったのを見逃さず、俺は力いっぱいエルボーをくらわせる。そして、力の入らない身体を引きずりながら、ドアを開けてヨロヨロと、もと来た道を引き返す。  なんとか下がらない熱を逃したくて、フーフーと息をついてみるが、あまり意味はないようだ。それより歩くたびになんだか、下腹部が濡れているような変な感じがする。  あぁ、なんだか自分が自分じゃなくなりそうで、凄く怖い。何度か扉を開けて、別の部屋に逃げたけれどまだまだ先は遠い。もう一つの扉を開けたところは、一面真っ白の撮影スタジオのようなところだった。同じく白いソファーが床に置かれてあり、緑の観葉植物が隣にある。咄嗟にそのソファーの後ろに隠れることを思いつき、ドサリと身体を床に横たえた。  酷く疲れたのだろう、少し眠っていたのかもしれない。次に意識が戻った時には、誰かに頭を撫でられていた。ぽーっと焦点の合わない目で見上げると、ジョシュアがそこにいた。先ほどまでかけていたサングラスはもうなく、黒曜石のような煌めく大きな目が心配そうに見つめている。  ──懐かしい……  そんな感情が湧き上がったのは、一瞬で。またブワリと熱が身体中を駆け回る。ハッハッハと息をついて、熱を逃したくてたまらないのに、身体の中心にどんどん熱が集まってきてしまう。  う〜っと、身体中に力が入って快楽を追い求めようとするのを、なんとかやり過ごそうとするけれど、そんな理性はもう焼ききれそうだ。どんどん麻痺したように何も考えられなくなってしまう。ジョシュアに触ってほしい。開いているところを埋めてほしい。あさましい考えがグルグル巡り、目から勝手に涙がこぼれて、うぅっと短い嗚咽を漏らした。 「な、なんで……こんな……酷い…こと」  ほとんど本能に押し流されそうな中で、最後にほんのちょっと残った理性をかき集めて、ジョシュアを睨んだ。 「あんた……なん……嫌いだ……」  そしてまた俺の視界は暗転した──。

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