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第11話 呆然

呆然としていた俺の口内に、にゅるっと舌が差し込まれる。器用に俺の舌を絡め取ってみたり、歯列をなぞってみたり、はたまた上顎をゾロリと舐めていったり。食べられているんじゃないかという位の深いキスに、経験値も酸素も追いつかない。  好きなように蹂躪されて、どちらのか分からないほど交ざりあった唾液が俺の口からとろりと垂れる。はぁはぁ…と空気を求めたいのに、あいつがそれを許さない。目尻にたまった涙がポロポロとこぼれる。 「泣かないで」  そう囁きながら、胸を弄っていた左手が俺の下腹部へとおりていく。すでにパジャマの上からでもはっきりと主張し始めたそれを長い指が掠かすめる。「…ぅっ……はぁっ!」  またビクンと身体が跳ねる。自然と腰が揺れてしまった。 「気持ちよくしてやる」  言うが早いか、俺のパジャマのズボンを引き下ろされる。すでにグレーのボクサーパンツには染みができてしまっていた。 「……や……怖い……」  甘えるような声になってしまったが、「大丈夫、康を気持ちよくさせるだけ」と頭を撫でられた。そのまま俺の前にまわり、ボクサーパンツからしっかりと芯を持ったそれを取り出す。  最初は手で扱しごき出す。ゆっくりと、でも俺の反応を窺い、的確に気持ちいいポイントを見つけていく。だらしなく鈴口から出てくる先走りを手にすり付けられて扱かれると、あまりの快感に勝手にのどが仰け反ってしまう。 「っ………あっ……」  先端がふいに温かいもので包まれて、思わず声が漏れた。自分の下腹部に目をやると、信じられないことにジョシュアが俺のものを口にふくんでいた。 「…ひゃっ……な、なんで……汚いっ……」 「……んんっ……汚くなんてないよ……」  キレイな口から発せられるにしては、恥ずかしいほど卑猥なジュポッ、ジュポッという水音がして、目をそらしたいのにそらせない……。  確かに入院してから、そんな気持ちにならなかったこともあり、久しぶりの刺激に身体は素直に反応していく。「……もっ……出ちゃう……からっ……離して……!」とジョシュアの頭を引き剥がそうと試みるも、うるさそうに手で払い除けられてしまった。  その間も、柔らかい舌が裏すじや鈴口を這い回り、強く吸われるとさらなる高みを目指して、自然と腰が揺れてしまう。 「あっ……もっ………だ……だめっ……!」  グーッと快感が一点に集まって、射精感が高まる。「あぁっ!………うっ……出るっ……」そして一気に弾け、ジョシュアの口の中に放出してしまった。しばらくぶりだからか、ドクドクとなかなか放出が終わらないのが恥ずかしい。  口内で俺の熱を受け止めたジョシュアは、褐色の肌をほんのりと色づかせた艶っぽい表情で、コクコクと飲み下そうとしている。「うわっ……何飲んでんだよ……吐いて!」ベッドサイドのティッシュペーパーの箱を掴んで渡したのに、「ん…はいじょうぶらから」と言って嬉しそうに笑った。  そして呆然としている俺を放って、いそいそとティッシュで俺のものをキレイに拭き出した。さすがに止めてくれっと言って自分で始末したけれど。  この状況がいまいち飲み込めないままの俺をよそに、うがいから帰ってきたジョシュアはひどく機嫌が良さそうだ。そして、ベッドに横たわっている俺の隣にデカい身体をねじ込ませてきた。そして俺を抱きまくらみたいにギューっと抱きしめてくる。 「嬉しいな、康にマーキングできて」なんて鼻歌でも歌い出しそうなくらいで、こっちが赤面してしまう。 ジョシュアは今日は、撮影もないしゆっくりしていくからと宣言し、本当に面会時間が終わる夕方まで居座った。その間に、出会ってから初めて俺たちはちゃんと会話した。今まで猿と猿みたいだったから、ほとんどジョシュアのこと知らなかったのに、この日は好きな漫画とかテレビとか、趣味は、なんてことを思いつくままに話した。  案外、話してみると、俺の話もちゃんと聞いてくれるし、ジョシュアの話も面白かった。今、撮影しているのは恋愛ドラマで、ジョシュアはヒロインと恋に落ちる主人公の親友役をしているそう。でも実はヒロインに片思いしていて、いわゆる三角関係の王道ラブストーリー。毎回歯の浮くような甘いセリフを言わされ、恥ずかしくて死にそうになってると言っていた。  それから芸能界に入ったきっかけは、高校1年生の時に駅でマネージャーになった小川さんにスカウトされたことだとか。「君なら天下をとれるかもしれない」って言われて、完全に詐欺だと確信したとか。断ったのに何度も何度も駅で待ち伏せされて、説得されて、ようやく事務所に行ったこととか。  天下には全く興味を持てなかったけど、テレビに出たら康が俺のことを見つけてくれるかもしれないと思ったこととか……。重いよ、お前の思いは宇宙レベルの重さだよ………。  恥ずかしさのあまり、俺は「そのゴツいサングラスはずっとつけてるのか?」なんて言って、小さな顔に比べてデカくて存在感のあるサングラスを指で弾いた。ジョシュアは、「うーん、本当はとってちゃんと康のこと見たいけど、また目が合ってヒートさせちゃったら申し訳ないし。いや、俺は別に嬉しいんだけど、康はこの前、すごい嫌がってたから」と言って、サングラスごしに俺の顔を覗き込んだ。  確かに。なんでジョシュアの目を見ると発情しちゃうんだろうなぁと呟くと、ジョシュアは子どもの時の暗示のせいかもしれないと申し訳なさそうに言う。  赤子だった俺の目を見て、自分の目と合わせて"お前は俺の運命の番だ。また二人が会える時まで、自分の力を出さないように身体の深い深い所で眠っておけ"と繰り返していたそうだ。  ……怖っ。しかしその暗示にかかってしまう赤子の自分も自分だな。そしてジョシュアの瞳を見たことがトリガーになって、最初は気絶したり、次には本当にヒートが来たりしたのか………。単純な自分が恨めしいよ。 「αの力って一体なんなんだ。そんなことまでできるのか」 「分からない。他の人に使ってみようと思ったこともないし。康にだってきちんと効果があったのかさえ分からなかったんだからな」 「ジョシュアの親もそんなに力が強いのか?」  一瞬、ジョシュアの頬がピクとしたが、 「俺には親がいない。教会に捨てられていた。俺はそこで育ったんだ」と淡々と答える。 「そうなんだ。ごめん、変なこと聞いて。真鍋先生がジョシュアのことαの階級がかなり高いとか言ってたからつい……」 「いいんだ。俺には康がいれば、それで幸せだから」と言って、またきつく抱き締められる。康が嫌がることはなるべくしたくないから、ちゃんとα用の抑制剤も飲んできたって胸を張って言う。はいはい、ありがとうね、と言って俺は自分よりひと周りはデカいジョシュアの身体を抱き締め返し、頭をヨシヨシと撫でてやる。……はっ、しまった。ついうっかり大型犬だと………。  しかし、当のジョシュアは撫でられて、本当に嬉しそうに微笑んでいるから、犬だと思ってとは言いにくくなってしまった。 「康がちゃんと俺と番になりたいって思うまでは我慢する。けどできれば他のαとは仲良くしないでほしい。また我を忘れちゃうかも」  いやそれは本当に勘弁してくれ。

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