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第16話 襲来
カーテンから射し込む日差しの眩しさに目が覚めた。むくりと上半身を起こしたが、身体の至るところが痛みの信号を出し始めたため、それ以上動くことができなかった。……なぜ?そしてなぜ俺は全裸なんだ………?しばし、呆然としていたが、己の身体についた無数の赤い痕を見て、またたく間に記憶が呼び覚まされた。
やってしまった……。どうやら初めてのヒートで、色々と箍たがが外れまくったようだ。いや、かろうじて最初の方は覚えている……いるが、本当にデロデロになって、めちゃくちゃなことをジョシュアに口走っていたことしか……。
もうちょっとお互いを知りたいなんて言ってた俺が、おねだりして抱いてもらうって、どの口が言ってるんだ。恥ずか死ねるんだが……。でも身体は屍のようだが、気分は信じられないほどスッキリしている。
ベッドの隣には、朝からキレイな顔をした男が、こちら側に顔を向けてすやすやと眠っている。精悍な顔立ちが、眠っている時は少し幼くなるんだよな、なんて少しの間見惚れていた。
ん……?爽やかな朝の目覚めに不釣り合いなものが、視界に入ってくる。なんだこの無数の使用済みコンドームは。ティッシュもクチャクチャに丸まったものたちがベッドや床に散乱しているし、なんならシーツもなんだか………。
なんだこの爛 れた環境は……。まずは自分の身体をキレイにしたくて、なんとかベッドから這い出す。しかし、下半身が使い物にならず、立ち上がることもままならない。恥ずかしいが、這いつくばっていくか……などと考えていたら、頭上から「康、起きたの?」と寝ぼけた声が聞こえてきた。
「ねぇ、ジョシュア、シャワー借りたいんだけど身体が動かない。歩けないんだけど」
「はは。そりゃあ三日三晩、ヤりまくればそうなるよ」
「………は?」
どうやら俺は、記憶が残っている最後の日から今まで3日いや4日?ベッドで暮らしていたってことか…?「き、記憶がない」頭を抱えていると、「うーん、確かに康、すっごい可愛いかった」
違う、そういうことじゃない。
「俺の親には……?」
「あぁ、小川が連絡するって言ってた。前に病院で会った時に連絡先聞いておいたんだって」
よかった……。いや、よかったのだろうか……?家に帰るのが怖い。母さん、ごめん……。
ベッドから出たジョシュアは、床に座り込んでいた俺をヒョイと持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこ!!
「ちょ、やめろ!」
俺の制止も聞かず、風呂場に連れて行かれ、シャワーで洗われて、湯船に浸からされて………うん、非常にさっぱりした。ジョシュアが甲斐甲斐しく、俺の世話を焼いてくれるのが恥ずかしいような、くすぐったいような。
そして風呂上がりには着替えも、ドライヤーでさえもジョシュアがやると言って聞かず。一人暮らしにはもったいないほどの広いリビングで、湯上がりでホカホカになった俺はのんびりとソファーに座りながら、ジョシュアによって髪を乾かされているのだった。
ジョシュアが「ごはん食べるか?」と聞くから、「えっ、ジョシュア、作れるの?」と驚いたが、宅配してもらうらしい。料理はコーヒー淹れるのと、フライパンで肉を焼くくらいしかできないようだ。
俺は食べ物ならなんでもいいと言うと、仕事があるから軽めにしたいというジョシュアは、サンドイッチやベーグル、コーヒーを注文してくれた。
ご飯が届けられるまでに、あの寝室の惨状を少しでも片付けたいと言うと「俺が仕事に出たあとでハウスキーパーが来て掃除するから構わない」とケロッとした顔で言うから、「俺が構うわ!!!」と絶叫した。とりあえずジョシュアに、シーツは引っ剥がして洗濯機に入れて回し、ゴムやテッシュペーパーたちは、ゴミ袋に入れてしっかり口締めとけ!と言った。ちゃんとしないともう二度とここには来ないと言ったら、すごいスピードで寝室に行った。ふぅ〜あいつの羞恥心はどこに行ったんだ。
その間にテレビをつける。ジョシュアが出ていたドラマが最終回を迎えていたはず。ちょうど録画されているじゃん、見ようと思っていたんだ。
ちょっとウキウキしながら見進めると、ん?ヒロインがいきなり最終回なのに取り返しのつかないミスをしてキャビンアテンダントからグランドスタッフに配置替えされてしまった……。そしてなんと主人公とジョシュアが演じた親友が、お互いを大事に思う気持ちを確認して両想い………?なんなんだ、ヒロインの存在がすっかり消されていないか………?
最後のBL展開が無理矢理すぎるような気もするが……。おぉっ、最後にジョシュアと主人公がキスしてるっ!なんか恥ずかしい……。
──ピンポーン
おっ、もう来たのか。「おぉーい、ジョシュア!宅配来たんじゃない?」
「悪い〜康、中に入れてやって。テーブルの上のリモコンで応答できるから」
「おっけー」
インターフォンに応答すると
「デリウィグの者ですが」と黒い服を来たがっしりとした男が画面に映っていた。
「はーい、どうぞ」
ロックを解除して、エントランスが開いたことを確認した。
「もうすぐ来るよ〜、俺立てそうもないから、ジョシュアが受け取ってくれよー」
「わかったーー」
リビングと寝室でバカでかい声でわーわー話してるだけなんだけど、なんだか愉快な気持ちになる。ちょっとだけ俺、今この時間が続いてくれたらいいな、なんて思った。
またピンポーンと玄関のチャイムが鳴り、今度はジョシュアが玄関を開けに行った。
──ん、やけに、玄関がうるさい。どうしたのだろうか。ドタドタと音が聞こえてきて、ガチャっとリビングの扉を開けたのはジョシュア────ではなく、見知らぬ金髪女性だった。
「……はっ?……え、誰?」
呆然としていると、やたらに高いハイヒールを履いたその女は、俺に向かって2、3歩近づいてきて、鼻をすんっとさせた。
「ジョシュア、これがあなたのΩ?」
くるっと振り返ると、ジョシュアに向かって流ちょうな日本語で問いかけた。ジョシュアはと言うと、黒服の男たちと揉み合いながら、一緒に部屋になだれ込んできた。
「お前ら、なんなんだ」
ジョシュアがすぐさま黒服の男たちを突き飛ばしつつ、ソファーの上で、アホみたいに口をぱくぱくと開けている俺を抱きしめて背中に隠すようにしてくれた。
「初めまして。私の名前はローズ。ジョシュア、あなたの婚約者ってところよ。よろしくね」
深紅色のやたら身体にフィットした服を着たこの人が、ジョ、ジョシュアの婚約者?!驚いた顔でジョシュアの顔を見ると、呆然としたまま俺の顔を見返した。
「はぁ?意味がわかんねぇよ。さっさと出てけよ!」
ジョシュアの叫び声が広いリビングに響き渡った。
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