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第4話 限界

 ちゃぷん。  たっぷりとお湯をはった猫足の大きなバスタブで手足を伸ばす。寒さで縮こまっていた筋肉がゆっくりとほぐれていくような気がする。 「はぁ〜~、今日は色々あったなぁ」  日本を飛び立って、デリウィグに到着したと思ったら、思わぬ歓迎を受けた。……というか、ジョシュアはともかく、俺はまったく歓迎されていないってことが分かった。  それでもジョシュアにとっては、お母さんの祖国なんだから、少しでも居心地よく過ごせればいいかな。俺はできるだけ邪魔にならないようにしなくちゃ。明日もキッチンの手伝いができればいいかな。  そんなことをつらつらと考えていたら、ガチャリとバスルームの扉が開く音がして、ジョシュアが入ってきた。もうすでに全裸だから、目のやり場に困るんだけど…。  そんな俺の気持ちなんて知らないジョシュアは、俺を背後から抱き締めるように湯船につかった。 「康は俺がいない間、何やってたの?」 「いや、あんまりにも暇すぎて。そしたらキッチンがちょうど手が足りないっていうから手伝ってたんだ。せっかく着てきたスーツもジャケット脱げば、ここの制服っぽいって言われたしね。それより、ジョシュアは何してたの?」  はーっとため息をつくと、ジョシュアは 「俺は、親戚だという連中とのおしゃべりに付き合わされてたよ。でもここの家の人間はほとんどがαだ。誰も信用しないほうがいい。康もほいほいついてっちゃだめだからな」 「そ、そんなほいほいって……んなアホじゃないよ」 「…どうだか。この前もスタジオで閉じ込められたじゃないか」  そう言われると、反論できないけど…。 「まぁ、それでも俺は母さんがやり残したこと、できれば叶えたいからさ。もう少しこの家に付き合ってみるよ」 「…それは、この家を継ぐかもしれないってこと?」  心臓がドキンと嫌な音を出して跳ねた。 「んー……それはまだわからないけど…」  考え込むようなジョシュアの姿を見ていると、きっと本気でこの家のことを考えているんだなとわかる。  そ、それってつまり、ローズとの結婚もありってことなのか……?そしたら俺は……?おじいさんの言う10人でも20人でもいいっていうΩの一人になるのだろうか……。  そんな考えがよぎって、石を飲み込んだような息苦しさを感じた。 「……ひゃっ…!」 後ろから回ってきた手が、俺の尖りを掠めて、クニクニと揉み出したもんだから、変な声が出てしまった。 「なっ……何してんだよ!」 「ボーッとしてる康が悪いと思うけど…?」  文句を言うために後ろを振り返った俺の頬は、ジョシュアに掴まれ、口づけで塞がれる。 「……むっ……んっ……ぁっ……」  荒々しく口の中を掻き回され、声になりそこねた音が俺の口からただ零れ落ちる。  いつの間にか芯を持ち始めたジョシュアのそれが俺の尻に擦り付けられるもんだから、たまらない。 「ちょ、……や…め……っ!」  抵抗の意志を示し、弱々しくジョシュアの肩を押す。 「……ベッドがいい……」  ちらりとジョシュアの顔を見上げると、「ふーーっ」と長いため息をついている。そしておもむろに立ち上がると、俺の身体にバスローブを巻き付け、そのままお姫様抱っこされて、ベッドまで運ばれた。 「っとに、ここの家はαがゴロゴロいるから、何かイライラしちゃうんだよな」    ぽふんとベッドに横たえられた俺を見下ろすようにこぼすジョシュアの瞳は、すでに獣のような獰猛さをたたえていた。 「はぁ?どういうことだよ?」 「わかんないけど、αがうじゃうじゃいる所に康が一人でいると思うとゾワゾワするんだよ、何か」  ──縛ってでも自分の番を家から一歩も出したくないって知り合いのαが言ってて、『こいつやべー』って思ったことがあったけど、あれ今ならすごく理解できるんだよな。  いや、怖いよ? 目がちょっとヤバいよ? 俺も今、違う意味でゾワゾワしてるからね。  無意識にジョシュアから身を護るように自分の腕で自分を抱き締めてしまう。    それを見てジョシュアは、フッって笑うと俺の唇に優しくキスを落とした。あ、優しいじゃんって思ったのも束の間で。ちょっと油断したところをガリッと鎖骨に噛みつかれた。 「……っあ、いった!」 「はは、ちゃんとマーキングしとかないとね」 「……あんまり痛くしないで。怖いから」 そう言うと、ジョシュアは元々大きな目をさらに大きく見開いた。 「え、康、もしかして俺、怖かった?」  狼狽えてオロオロし始めたので、さっきの獰猛さは消えてしまった。少しホッとする。 「んん。怖くない。……でも今日は俺、本当にとっても疲れたからさ、優しくしてくれたら嬉しいんだよね…」  俺からぎゅっとジョシュアに抱きつくと、ジョシュアからもギューっと抱きしめられる。 「……ん、わかった」  耳元でささやかれて、顔中にキスが落とされる。そして首筋も舌がチロチロと舐めていくから、どんどん息が荒くなっていく。 「あっ……気持ちい………」  さらに下におりてきた舌が乳首の周りをクルクルと焦らすように這い回ると、それだけで腰が揺れてしまう。空いている乳首は、指で摘まれ、引っ張られるとあられもない声が出てしまう。  舌がベロリと乳首を舐めて、吸われ始めると快感が背中を走り抜ける。我慢できずに「した……もっ……触ってぇ…」とねだってしまう。  バスローブに隠れていたペニスは、すでに先走りで濡れてピンとそそり立っていた。ジョシュアはゆっくりと根元を持つと、しごき始める。 「あ〜っ……いい………」  快感に蕩け始めた俺を見て、ジョシュアがいきなり俺の腰を持ち上げるから、後孔が丸見えになってしまう。 「うわっ……な、なに……あっ!……」  ペニスを扱く手はそのままに、ジョシュアがアナルを舐め始めた。蠢く舌が、孔の中まで侵入して来て、頭の中まで蕩けてしまいそうだ。 「もぅ……きて!……じょしゅあの……!」  全部を言い終わらないうちに、ゴムもつけないままの昂ぶりが、どちゅんと体内に挿し入れられる。 「あ゛っ……〜~っ!」  挿れられた衝撃で、呆気なく体液をこぼしてしまう。 「挿れただけでイッたの?……ふふ、すごいエロいね」  はっはっと犬のように荒い息をなんとか整えようとしているのに、グリグリっと押し進めて来たかと思ったら、突然腰を引いて。またさらに深く挿し込まれる。ちゅぱん、ちゅぱんといやらしい水音が部屋に響き渡る。 「……だめっ……はげ…しっ………また…いっ…ちゃあ〜〜!」  優しくしてくれって言ったのに、そんなことが一瞬頭を掠めたけど、また大きな快楽の波が近づいてきて、そんな思考は攫われていってしまう。 「……あっ………あぁっ………!」  口から漏れるのは言葉にならない音と、唾液だけだ。 「……っく……すっ……ごく…締まる。……もってかれそ」  苦しそうに、何かを我慢するように眉間に皺を寄せた顔があんまりにも綺麗だったから、思わず見惚れてしまう。 「いい……我慢……しないで……いっしょ……にっ…」  伸ばした手が、ジョシュアによって恋人繋ぎにされる。 「……ん。康、いっしょにイこう」  ジョシュアのガツガツと穿(うが)つスピードが上がって、目蓋の裏に白い星がちらつく。限界が近いことを知らせる。内腿がぶるぶると震え、自分で自分の身体が制御できなくなる。 「………ぁ、あぁっ……い、いくっ……!あ゛ぁ〜〜っ!」 「康、俺も……くっ………イクっ……!」  腹の中がじんわり温かくなって、ナカに出されたことを知る。 「はは……ナカ、ジョシュアでいっぱいだ……」  腹に手を当てて、笑うと、優しいキスがおりてきた。「ごめんな……後で薬も飲ませるし、キレイにするからゆっくり休んで」  その声に安心して、俺は静かに目蓋を閉じた。心も身体も満たされた、この幸せを今だけは何も疑わずに噛み締めていたいから──。

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