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第5話 裏腹
おはようございます。私は、デリウィグ随一の富豪ゴルドー家でメイドをしておりますリサと申します。
私がこの家に勤めるようになったのは高校を卒業したあとですから、もう4年前でしょうか。Ωである私は、父から「高校まで出したんだから充分だろう、もう働きなさい」と言われ、ここの紹介を受けて住み込みで働き始めました。
それまではこんな丁寧な話し方なんかしておらず、普通の高校生だったと思います。でも執事のサイモンさんやメイド長にきちんとした話し方じゃないと、「やっぱりΩは…」となるし、何よりゴルドー家の品格にかかわると言われてしまいました。
私自身、そんなもんなのかぁって感じでした。周りの人たちも小さい頃から「Ωはαを誘惑する穢れた人たち」と言い続けてきましたし。まさか自分自身がΩだとは思いませんでしたけどね。
運が悪かったのだなと思いました。頭が良かったり、顔が良かったり……色々と持って生まれたものが違う中で、自分に回ってきたのがΩだったんだなと思ったのです。
一言で言うと諦めていたんです。
そうしないと辛いから。βやαの友達には、当然選択肢に入る大学進学が、なぜΩだとないのだろうか。私だって………。
でも気持ちとは裏腹に、ヒートはやってきます。理性をドロドロに溶かして、身体中に熱が籠もります。どうにかしてαに鎮めてほしい。それだけが頭を支配するんですから。それが1週間続けば、勉強もやっぱりついて行けなくなって……。どんどん自分の心に諦めが積もって行きました。
今は抑制剤を使いながら、辛いときには休みをもらいながら、仕事をしています。ヒート中にαには出くわさないように気をつけて。
───それが、私の知ってるΩの世界でした。でももしかしたら違うのかもしれない…。日本という東にある小さな国から来たコウというお客様を見ていて、そんな思いが生まれてきたのです。
と、まぁ私の昔話はこのくらいにして、今朝のことをお話をしたいと思います。
朝食の準備ができたことを知らせようと、客室に向かっていました。ノックをしようとしたところで、室内から声が聞こえてきたんです。
「…やめろって!……うわっ、どこ触ってるんだよ……昨日も散々……あっ、んんっ………!」
「やだ、やめなーい」
「……もう起きなきゃ……人が来ちゃうだろっ……もう、ほんとにだめ……ってば。あぁっ……」
これは康とジョシュア様の声……?
その後は、くぐもった声しか聞こえなくなったけれど、それはそれで。
うーん、これは入りにくいです。いや、今声をかけたら、絶対お邪魔になっちゃいますよねぇ。
しょうがないので、後で出直そうと、静かに引き返すことにしました。
というか、康はΩなのにαに対して、対等に話してるんだわ。それが驚きです。
常にΩは、αより下であるって教えられてきたから信じられない。あんな風に話したら、αから絶対怒られると思うけど、ジョシュア様は全く気にしていない様子だったし。
その後しばらくして、また客室に行くと今度は部屋からは何の声もしなかったので、ノックをしてから「おはようございます。朝食の準備はできております。ほかの皆様はすでに召し上がったので、ごゆっくり準備をしてくださいませ」と扉越しに声をかける。
すると中から「…!あ、はい。わかりました。ありがとうございます」という康の声が聞こえてきた。
本当にこの2人って何なのかしら。
彼は私よりも年下に見えました。でも私のようにΩだからと卑屈にはなっていなくて……。もっと言うと、αのジョシュア様からの愛を一身に受けていて。
αというと、ヒート中のΩを襲うとか、Ωを見下しているなんてイメージでしたけれど、ジョシュア様はそれはそれは康を大事にされていましたから、とっても意外で驚きました。むしろ康の幸せな顔を見るのが自分の幸せだと言わんばかりで……。正直、とても……。
リサは自分の中に生まれてきた感情に気づかないふりをして、かぶりを振った。まるでそうすれば、感情さえもどこかに飛んでいってくれると信じているように。
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