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第8話 恐怖

なんだかよくわからないまま、不思議な視察が終わり、夕方過ぎにようやく屋敷に帰り着いた。 テリーからはお茶でも一緒に飲まないかと誘われたけれど、久しぶりに外を歩き回って疲れたし、この変なヤツの相手をこれ以上やるのは勘弁してほしいと思って、丁重にお断りさせてもらった。 少し残念そうな顔をしたテリーだったが、それ以上食い下がってくることはなかった。 ただ、あいつがまた手を出してくるから、こっちも思わず条件反射的に手を差し出してしまったら、キュッと握られて、俺の手の甲に軽くキスされたのにはびっくりした。 思わず手を引っ込めたんだけど、「またね」ってウインクしながら、あっという間に去っていってしまった。 取り残された俺とリサ……。本当に気まずいったらない。 「なぁ、あの人なんなの?」 「…ちょっ!……あの方でしょ!…そんな言い方だめでしょ!」 「だっておかしいじゃないかよ!いきなりエスコートしてきたり、手にキ、キスだって……!」 小声でリサを問い詰める。 「…私だって、なんでかわからないよ。あの方は、あまりこちらのお屋敷に来ないし。多分、ミュージシャンだったと思うんだけど、ツアーとかで世界中まわっているみたいよ」 ……なんだそれ。この家の人たちは、どれだけ才能にあふれているんだよ……。もう考えるのも面倒くさくなって、リサには悪いけど部屋で休むと告げた。 遠くの使用人部屋に行くのが面倒で、ついついジョシュアの使っている貴賓室に足が向く。扉を開けて中に入ったけれど、当然というか、ジョシュアはまだ帰ってきていなかった。 そのままベッドに倒れ込むと、スーッと意識が沈んでいった。 ──── ん゛っ……? 眠りについていたはずだったのに、身体に変な違和感を覚えて身をよじる。……あれ?力が入んない。なんで手がバンザイした格好のまま動かせないんだ……? というか目が見えない……? 「うわっ……やだっ!……やめろっ!」 誰かが俺の素肌に手を這わせている。制服の前が、はだけているようでスースーするのに、這い回る手はやたらに熱く、執拗だった。 目は目隠しされているのだろう。視覚を奪われて、より一層、与えられる肌への刺激に敏感に反応してしまう。 「……あがっ……やめ……やだ……」 肌に触れるか触れないかくらいに、焦らしてきたかと思うと、いきなり乳首をぎゅっと摘まれて、思わず声が上がってしまう。 そのまま乳首をぎゅうぎゅうと上に引っ張るもんだから、 「いた……いたいっ!……うぅ……やめ……てっ」 と手の持ち主に訴えてみるが、全く手を緩める気配はない。 ぐりぐりと乳首をこね回されて、快感とも恐怖ともつかない感情に襲われる。 「じょ…じょしゅあ?」 期待を込めて、この部屋の主の名前を呼びかけてみるものの、何の返答もない。……この手はジョシュアではないのだろうか……? 全く別の誰かに触られていると思うと、急に恐怖が押し寄せてくる。 「やめて……!す、ストップ!……プリーズ!」 身をよじって逃げ出そうとするけれど、両手首を拘束されていて、さらに目隠しされているとなると、どの方向へ逃げたらいいのかもわからない。 そんな俺を嘲笑うかのように、目の前のやつは、俺のズボンに手をかける。カチャカチャという音を立ててベルトが外され、下着と一緒に脱がされる。 「……いやだっ!……やめろっ!ジョシュアッ〜~!!」 思わず助けを求めて、声を上げる。怖い。助けて。ジョシュア以外に触られるのは嫌だ。 「……た、、助けて。ジョシュア……」 もう殆ど泣いていたかもしれない。ジョシュア以外のやつに犯されるかもしれないと思ったら、怖くてたまらなかった。 俺の身体を這い回る手が遠のいた。しばらくして、俺の目隠しが外される。眩しくて目を細めていたら、 「…酷くしてごめん」 懐かしい声が聞こえてきた。ぎゅっと抱きしめられる。 「……じょ、じょしゅあ?」 両腕の拘束もとかれ、自由になった手で抱きしめた相手を確かめようと相手の肩を掴む。 果たして目の前にいたのは、、、 そうであってほしいと焦がれていた相手だった。 「……なんで。酷いよ……!」 安堵からか、ジョシュアに縋り付きながらも涙と怒りが収まらない。 「……ひっく……おれ、びっくりして。ジョシュアじゃない奴に触られてるって思ったら怖くて………すごく嫌だった……」 ジョシュアは 「ごめん。帰ってきたら、知らないαの匂いをつけて眠っている康がいて、怒りで縛り付けてしまった」 口では恐ろしいことを言いながら、俺の涙を拭ってくれる。 「でも俺に助けてって言ってくれたから嬉しかった」 そう言って涙でグチャグチャの俺に優しく口づけた。 「……ん……んっ……あ……」 深くなる口づけに、さっきまで感じていた恐怖が消えていく。

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