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第11話 寝顔

今日は特別よく冷える。クリスマスイブの朝、窓から入ってくる冷気でふと目を覚ました。 隣を見ると、とても綺麗な寝顔があってホッとする。まだ早朝だからか、ジョシュアも出かけていなかったようだ。さすがにイブの日までは外出しないだろうか。顔にかかった前髪にそっと触れてかきあげる。端正な顔が、寝ている時にはなんだか幼く見える。 今日はゆっくり過ごせるといいのだけれど。そんなことをつらつらと思っていたら、またとろとろと眠気が襲ってくる。ゆっくりと重力にまかせてまぶたを閉じた。 次に目が覚めると、時間は午前9時過ぎ・・・。すでにベッドには俺しかいなかった。ジョシュアはどこにいったのだろう。 そのまま少しぼーっとしていたのか、ノックの音とともにリサが「おはようございます。リサです。開けてもいいですか?」と声をかけるのが聞こえた。 部屋に入ってきたリサに挨拶もそこそこにジョシュアの居場所を尋ねると、少し肩をすくめて「旦那様たちと親戚への挨に出かけてしまいましたよ。康はよく寝ているから起こさないでと言って」と言う。 「……そっか」 ──俺、なんでここにいるんだろ? 頭をよぎった思いに自分でも驚いて思わず頭をふる。リサにも怪訝な顔をされてしまった。 その後は、クリスマス休暇で帰省している人もいるというので、またしても掃除を手伝うことにする。今夜の夕食はまた親戚一同が集まって豪勢に食べるんだそう。 俺はリサたちと食べようと思いながら、いつもよりも来客の多い屋敷の窓拭きをしていた。 「ハーイ、コウ!」 陽気な声が背後から聞こえてきた。 ぎくっとして、恐る恐る振り返ると、そこにはニコニコと笑うテリーがいた。 「はは…。ハロー……」 しょうがなく挨拶を返すと、テリーの目が少し見開かれる。ん?と疑問に思っていたら、テリーが近づいてきて、俺の首筋に鼻を近づけるとクンクンと犬のように匂いを嗅ぎ出した。 「えっ……?!何っ……?」 驚いて後ずさる。 「フーム、、◎▲□÷%@☓○〜~」 何を言ってるのか聞き取れなかったけれど、あんまり良くない話だなというのはわかったので、その場を立ち去ろうとした。だけど行く手をテリーに塞がれる。 周りには生憎とリサもほかの使用人仲間もいない廊下で、しばらくお互いに無言で見つめ合う。 「コウ、最近パートナーいない?」 突然、カタコトの日本語で話し始めたテリーに呆気にとられる。 「前、パートナーのαのマーキングの匂いすごい。でも今はあんまりしない。パートナーいない?」 ……つまり前は俺からαの匂いがプンプンしてたけど、今はその匂いがしないからそのαはいなくなったんだろうということ……? 「……っ、ノー、ノー!」 思いっきり否定して、なおも追いすがろうとするテリーをかわして、俺は逃げ出した。しかし残念ながらテリーはまた何かを喋りながら追いかけてくる。やば、怖い。 必死で廊下の端まで走り、階段を降りて一階へ行く。そして最初に目についた女性用トイレの扉を開けて、入った。どこかに隠れなきゃと焦っていると、個室の一つから水を流す音が聞こえてきた。 うわ、こっちもやばい。でも廊下からテリーが何事かを大声で話しているのも聞こえてきて、今出ていくことはできない。 どうしようと焦っていると、個室の扉が開いて、中から人が出てきた。俺は凍ったようにその場から動けなくなった。 そして中から出てきた人を見て、声にならない叫び声をあげた。

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