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第2話

入学式から数日が経った。 抜き打ちの実力テストがあり、俺は学年トップの成績になった。 廊下に大きく貼り出された紙には、成績順に上位から30名までの名前が書かれていた。 瑞希は俺の次だった。 俺も中学の頃の成績は、トップクラスだった。 その俺を越えて、瑞希はこの高校にトップの成績で入学した。 実力テストの時にそれを意識していたのか、いなかったのか。 狙ったわけじゃなかったが、1位を獲ったことは素直に嬉しかった。 「日浦すげぇ!」 「やるじゃん!」 同じクラスの奴らが、口々に褒めるのがくすぐったい。 教室に戻ろうとした時、 瑞希の姿を見つけた。 成績が貼り出された紙の前で、瑞希は目を見開いて、呆然と立ち尽くしているように見えた。 「翔真すげぇ!1位じゃん!」 中学の時から友達の木田が、大きな声でそう言って駆け寄ってくる。 その声につられるように、瑞希がこちらに目を向けた。 俺と瑞希の視線がぶつかる。 目が合ったかあわないかのタイミングで。 いきなりキッと睨まれた。 綺麗なその顔が、あからさまな敵意に歪んでいる。 えっ? 戸惑う俺をよそに、瑞希はその場から立ち去った。 木田がじゃれついて、俺の首にロックをかけてきた。 木田のことより、去っていく瑞希の後ろ姿に気を取られて。 今のは何だったんだ? 自分の教室に戻っても、さっきの出来事が消えない。 一瞬だったが、明らかに敵意を隠さない鋭い視線だった。 嫌われた? そう思い、胸の辺りがズキッと疼いた。 その痛みで初めて。 瑞希に恋していることを知った。 俺は、瑞希のことが好きなんだ。 小学生の頃から、俺はモテてきた。 中学の時は女子から告白されて、付き合ったこともある。 でも、「Like」以上の好きがわからないままで、ある日、突然フラれた。 今、初めてわかった。 瑞希を初めて見たあの時、ひと目惚れをしたことを。 そして、これが恋なのだと。 初恋の相手が男で。 まさか自分が男に恋するなんて思わなかったけど。 衝撃的ではあったが、自分でも驚くほどに嫌悪はなかった。 ただ、苦しくなるような強い胸の痛みがあった。 瑞希を好きだと自覚したその日から、瑞希とは特に接点のないまま5月に入り、中間テストがあった。 成績順位表がまた廊下に貼りだされ、瑞希が学年1位に返り咲き、俺は2位だった。 偶然、瑞希と鉢合わせ、彼は俺に気づくとフンッと顔を背けて行ってしまった。 俺を打ち負かしたと思ったのか、瑞希はどこか得意げに見えた。 彼が小さくガッツポーズしていたのも、俺は見逃さなかった。 感情が隠せず表に出る。 素直なんだな。 もっとクールなのかと思っていた。 そんな瑞希を見て、なんだか微笑ましく、可愛いと思った。 期末テストは俺が1位で、瑞希は2位だった。 瑞希は顔を歪めて、明らかに悔しがっているように見えた。 そして、俺に気づくと、また顔を背けて行ってしまった。 それを見て気づいた。 瑞希が学年トップにこだわっていることに。 瑞希が俺をライバルとして認識していることに。 もしかして。 俺がこのまま学年トップを取り続ければ、瑞希に俺を見てもらえるんじゃないか? 瑞希の「視界に入りたい」 意識されたい。 俺を、見て欲しい。 俺は瑞希と学年首位をかけたトップ争いをすることを决めた。 瑞希の怒りを買うかもしれない。 今以上に嫌われるかもしれない。 でも、例え嫌われても、瑞希の中に俺が存在する方がいい。 このまま何も接点がないよりは……。 そんな強烈な想いが原動力となり、俺を突き動かした。

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