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第3話

期末試験が終わり、部活動が再開された。 俺は小学生の時から続けてきた空手を部活に選んでいた。 大きな大会も控えていて、今日の練習もハードだった。 「今日もキツかったなー」 隣で木田がぼやく。 木田も中学の時と同じく空手部だっだ。 たわい無い話をしながら、校門まで自転車を押して歩く。 ふと、木田が瑞希と同じクラスだったのを思い出した。 「そういえば、お前のクラスに雨音瑞希っていたよな。どんなヤツ?」 「うーん?どんなって言われてもなー。とにかく頭はいいよな。暗い感じじゃねーけど、ほとんどしゃべらない。で、そこらへんの女よりよっぽど美人だろ?目立つよな。みんな興味はあるけど、近づけなくて遠巻きに見てるって感じ」 「ふーん、そうなんだ」 美人って思うのは俺だけじゃないんだな。 そうじゃなくて。 人を寄せつけない所が気になった。 それと、瑞希から感じていた寂しさ。   孤独感。 瑞希は一体何を抱えているんだろう? 「何だよ?翔真。雨音のことが気になるの?お前が他のヤツのこと、気にするって珍しいじゃん」 「いや、何でもない」 瑞希のことが好きで、知りたいとは言えなかった。 「ふーん。それより、俺、腹減ったー。何か食って帰ろうぜ」 「悪いな。急ぐんだ」 「えー?付き合いわるー。翔真、なんか、最近、変わったよなー」 「ホントにごめん、またな」 木田に手を振って、門の所で別れた。 自転車に飛び乗り、勢いよく漕ぎだす。 変わったと言われれば、俺は変わったのだろう。 部活が終われば真っ直ぐ家に帰り、晩飯と風呂もそこそこに机に向かう。 勉強するために。 今までなかったことだった。 俺の家は神社で、男ばかりの4人兄弟だ。 跡取りは長男の統真(とうま)と決まっていた。 跡取りだから、両親はことさら統真に目をかけた。 俺を含めた他の3人の兄弟を、決して愛さなかったわけじゃない。 だが、俺がどんなにいい成績を取ろうが、空手の全国大会で優勝しようが、一番上の兄貴ほど見てもらえたことがなかった。 父の目も母の目も、常に統真を見ているように映った。 それに気づいて、子供心に寂しかった。 成長するにつれ、その寂しさは薄れていったけど。 だからなのか。 俺の中の寂しさと、瑞希に感じる寂しさが引き合うのかもしれない。 正直いって勉強はどっちでも良かった。 将来、何の役に立つのかまるでわからなかったし。 でも。 たぶん、今、瑞希も勉強してるんじゃないか。 俺に負けまいとするように。 勉強もスポーツも、何でも卒なくこなしてきた俺が、これほど夢中になり、何かに熱情を注いだことはなかった。

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