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第4話

夏が過ぎ、10月の初め。 朝は晴れていたのに、放課後になって帰る頃には、けっこう激しい雨になっていた。 俺は部活に向かうため、昇降口へと向かった。  そこに瑞希が立っていた。 傘を持っていないのか、帰ろうか雨が止むのを待とうか、迷っているように見えた。 「……瑞希」 思わず、近づいて後ろから声をかけた。 瑞希が振り返る。 俺の姿を認めて、一瞬大きく目を開き、 声をかけたのが俺だとわかると、逃げるように走り出してしまった。 雨の中を。 跳ね返る泥水で、制服のズボンの裾を濡らすのも構わずに。 俺が本気を出せば、軽く追いつけるスピードだった。 でも、追えなかった。 俺も傘を持ってなかったから。 追いついたとして、どうする? 追いついて引き留めたら、「好きだ」と言って、抱きしめてしまいそうだった。 それだけの『衝動』が俺にはあった。 瑞希の後ろ姿を、ただ見送るしかなかった。 いざと言う時に手を貸してやれない。 好きなヤツを助けてやれない。 そもそも声をかけなければ、瑞希を冷たい雨の中、帰らせずにすんだのか? 無力さを抱えながら、俺は部室へと向かった。 俺が帰る頃には、雨は上がっていた。 瑞希は無事に家まで帰れただろうか。 それにしても、派手に嫌われたものだ。 好きなヤツに嫌われてショックなはずなのに、 俺はそれさえも受け入れているメンタルの強さに驚く。 自分が選んだことだ。 嫌われても、無視されても、瑞希の視界に入らないよりはいい。 好きと嫌いの境目は曖昧で。 天と地くらいにかけ離れているようで、どこか同じだと感じる。 好きも嫌いも、相手をはっきりと意識している所が同じだと。 だから、大丈夫。 嫌われて上等。 俺は俺のやり方を貫く。 待ってろ、瑞希。 次は必ず追いかけるから。 3学期の期末テストまで、俺たちの首位争いは続いた。 実力テストも含めて5勝5敗だったが、勝っても負けてもどちらでも良かった。 俺はただ瑞希との勝負が楽しくてしかたなかった。 どんなに面白いゲームでも、これほどまでに夢中になれるゲームはないだろう。

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