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第5話

 晃誠の家の駅に着く直前に、晃誠の方から口を開いた。 「空、さっきの納得してないだろ」  納得はしてなくても晃誠が話したくないのなら仕方ない。 「もういいよ。話したくなったら聞く」  無理強いをした気がして、後悔していた。 「家、行ってもいい?」 「え?」 「なんか後味悪いし」 「うん。もちろん」  俺は晃誠の話よりも、晃誠が家に来る事実に浮かれてしまったのだった。   俺の住んでいる一軒家に晃誠を連れて行くと、誰もいないのに 「お邪魔します」  と挨拶をする。  こんな時でも礼儀正しい晃誠は、育ちがいいのを匂わせた。 「なんか飲む?」  と聞くと、いいからと遠慮する。さっきファーストフードで飲食したばかりだからかもしれない。  それでも何も出さないのも気持ち悪いので、たまたま家にあったコーラとポテチを用意し、晃誠をダイニングの椅子に座らせ、隣に座った。  晃誠はしばらく落ち着かずにため息をついたりそわそわと貧乏ゆすりをしていたけれど、意を決したみたいに切り出した。 「あのさ、もし、好きになってはいけない人を好きになった場合、空ならどうする?」  俺はドキッとした。まさか俺の気持ちがバレたんじゃないかと思ったのだ。 「さ、さあ。晃誠はそういう人いるの?」 「たとえばの話だよ」  晃誠はそれ以上何も言わず、寂しそうに視線をそらした。  やっぱり晃誠も誰かを想っているんだろうか。誰にも言えないような気持ちを抱えているんだろうか。  もちろん自分ではないだろう。だったらこんな話俺にするはずない。わずかな期待さえ、もろくも崩れ去った気がした。

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