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第6話

「へえ」  突き放した言い方になったが、万が一にも可能性がないと思うとどうでもよくなる。 「で、誰なんだ?」  投げやりで聞くと、晃誠は顔を歪める。 「だから違うって言ってるだろ」  声を荒げて言う晃誠は、既に余裕がなさそうだった。 「ふーん」 「ごめん。やな言い方した」  すぐに冷静になり、改める所は晃誠の良いところだが、今の俺にとっては全くもって気に入らない。 「まあ別に誰でもいいけど」  晃誠の方を睨んで言った。 「空?」  自分で名前を呼ばせたくせに、今ここで呼ばれたくなかった。 「どうせ俺じゃないんだし」  言うことがなかった言葉を口にし、あろうことか俺はかっとなってしまった。  すなわち、気付いたら晃誠の唇に無理矢理唇を押し付けていた。ほんの数秒、息が止まるような感覚がした。  舌先を唇から出したところで晃誠に引き剥がされる。 「だ、やめろって」  唇を拭う仕草をした晃誠を見て、俺は体中の熱が冷えていくのを感じた。 「ごめっ。つうかもう帰れ」  泣きそうだった。  無理矢理玄関に押しやって、ドアを開ける。  何か言いたそうな晃誠を追い出して、靴を投げ捨て鍵をかけた。  呼び鈴を何度か押されたが、無視して出なかった。しばらくしたら諦めたようで、音も聞こえなくなった。  自分の部屋のベッドにうずくまり、自己嫌悪に陥る。  そんなことするつもりなかったのに。俺、何やってんだ?  家に呼んだりしたら、制御できなくなるなんてわかっていたはずなのに。  言ってることとやってることがかみ合わない自分に呆れる。  明日からどんな顔をして晃誠に会えばいいのかわからない。  トイレに行こうと1階に降りたら、やばいことに晃誠が鞄を忘れて帰ったことに気付いた。  届けないとと思い、スマホを確認したが、晃誠からの連絡はなかった。  今はどうしても会いたくない。  すぐに明日でいいかと無理矢理頭から振り払う。  親の帰りは遅かったが、顔を合わせたくなくてずっと部屋にこもってた。  風呂にも入らず、眠ろうと思っても頭が冴え渡り眠れない。  しでかしたことと、明日からの学校の憂鬱さに吐き気がしてたまらない。  休んだら休んだで親に勘ぐられるし、鞄も返せなくなる。八方ふさがりの中、ぐるぐると後ろ向きな考えが浮かんでは消えた。  途中うとうとしたが、ほとんど眠れず、朝鏡で見たら目には隈ができ、醜い顔の自分が映っていた。

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