2 / 3

第2話

   俺の家は学校から比較的近いところにある。そのせいか、繁実はよく俺の家に遊びに来たがった。  クラスの人気者の繁実には、俺以外にももちろんたくさんの友人がいる。それなのに、そんな仲間よりも俺に声をかけることの方が多いから、俺はちょっとした優越感に浸ることができるんだ。今まで友人らしい友人もいなかった俺にとって、繁実は初めてできた「ちゃんとした」友達。特別な友達だ。  繁実のおかげで毎日学校に行くのも楽しみだった。でも日に日に独占欲のようなものが湧いてくる。今までに味わったことのないこの感情が何なのかなんて、俺にはわからない。  だけどそれは、知られちゃいけないものなのだと何となくわかっていた── 「なあたけちゃん、ちょっと待って。そこのコンビニ寄らね? 勉強すると腹減るじゃん」 「いや、シゲだけだろ。てかいつもここでお菓子買ってくじゃん。当たり前に寄るだろ、コンビニ」  コンビニの前で不意に手首を掴まれる。いちいち触れてこなくても言葉でわかるのに、「早く早く」と楽しそうに俺の手を引く繁実に目尻が下がる。こんな些細なスキンシップが嬉しくて、俺も手を振り解くことはしなかった。  家に来る時は決まって寄る近所のコンビニ。繁実はペットボトルの炭酸飲料とスナック菓子を、俺はお茶を買うことが多い。買う物が決まっていても、二人でふらふらと店内を歩く。そのちょっとした時間も俺にとっては楽しくてウキウキする特別な時間だった。 「あっ……これ」  ふと目にしたデザートコーナーにある洋菓子。透明のケースに入った手のひらサイズのカップケーキ。天辺に生クリームが置かれ、その上には赤々としたチェリーがちょこんと乗っていた。所謂写真映えしそうな、見た目が可愛らしいカップケーキだ。その新作であろうスイーツを手に取り、俺は繁実の元へ歩いた。 「ちょっと! 何それ! 新作? たけちゃんらしからぬもの持ってるじゃん。甘いもの好きだっけ?」 「いいや、別にそれほどでも……」 「へ? だよな? いっつもジジ臭く茶しか買わねえのに」 「ジジ臭いってなんだよ。別にいいだろ、たまにはこういうの買っても」 「うん。たけちゃんそういうのも似合うね。可愛い」 「………… 」  思いがけず、繁実に「可愛い」なんて言われてしまい返事に困った。俺がこんなカップケーキが似合うなんてこれっぽっちも思わないし、半分馬鹿にされているのだとわかっていても、俺はちょっと嬉しかった。 

ともだちにシェアしよう!