2 / 22
明良 -2
「おはようございます」
週明けの月曜日。月初である今日は、全体会議の資料を準備するって仕事が待っていた。毎月あるこの会議は、社長から各部の課長までが全員参加で、各部署の作業進捗や問題の報告などを行っているらしい。
オレの仕事は、共有フォルダーに送られてくる会議資料を、確認しつつ印刷すること。たまに届いてないのがあったりするので、電話で送るようお願いしたり、何故かフォーマットがズレてる場合があるので、それを修正したりしている。
そんなワケで、総務部のしがない下っ端社員なわりにはいろいろ知ってたりする。と言っても、専門的な話とかが多くて半分も理解できないんだけど。
「ちょっとーっ、営業部で、間宮クンがホモだってウワサが飛び交ってるんだけどっ!」
作業に没頭してた時に、突然飛び込んできたそのセリフ。えっ、オレ?
「なにそれー」
「何でも、ゲイバーへ入ってく間宮クンを見たってハナシよ」
「マジで?」
「えーっ、間宮クンってホモなの?」
えっ、――えっ?
確かにゲイバーへは行ったけど、か、会社でホモってウワサが広がってる?
「で? ゲイバー行ったの? 間宮クンてホモだったの?」
隣の席の和田さんが詰め寄ってきた。心なしか目が輝いているような……。
「……えと……、た、たしかにゲイバーは行ったんですが……、あの時は営業部の先輩4人に捕まりそうになっちゃって、思わずそこへ逃げたって言うか……」
「営業部の先輩って、ああ、何でか総務部の飲み会に参加してた、肉食女子4人組のこと?」
「あ――、あいつらかっ! 去年開発部で餌食になったコがいたってウワサあったよね?」
「あの人たち、間宮クン狙いで飲み会参加してたってワケ?」
「許せん! 間宮クンをイジっていいのは、この総務部だけだってのに」
「じゃあ逃げただけなのね? 食われなくて良かった―っ。ホモじゃなくて良かった―っ」
「しかし許せん、営業部!」
「部長―っ、営業部に苦情言ってくださいよ―っ!」
オレ抜きで騒ぎ出す総務部先輩女子の面々。
一部気になるセリフはあったものの、総務部内での誤解は解けたようで、ほっとする。ホモじゃないってところは、とりあえず誤解されたままにしておこうと思う。あまり会社には知られなくないし。でも、総務部以外ではホモって思われてるのか……。ちょっとキツいかも。
って言うか、オレって下っ端のペーペーだし、オレのこと知ってる人って少ないと思うんだけど?
「間宮の性的嗜好は置いといて、ホモってのは差別用語だからな。午後の全体会議の時に、営業部には苦情申し立てしとくよ。私としても自分の部下が他人から後ろ指さされるのは嬉しくないし、それが我が総務部唯一の若手男性社員となれば尚更だ。
総務部は意外と体力使う仕事もあるからな、辞めるなよ、間宮!」
せ、瀬川部長~。
性的嗜好は置いとくって……。
「ところで何て名前のゲイバーに行ったんだい?」
暫くして瀬川部長が聞いてきた。
「スグルって名前の店です。スグルママって呼ばれてる、がっちりした男性がやってる店で……」
「嗚呼、あそこか。……また、濃い店に行ったもんだねぇ」
「えっ、部長知ってるんですか?」
「まあな。それはともかく、年上の女性は迫力あるかもしれないが、逃げるんじゃなくて、きっちり断れるようになった方がいいぞ。間宮はちょっと気の弱いところがあるからなぁ、上司としてもそこは心配だよ」
まさか部長が知ってる店だったなんて…。
あれっ、でも女性入店不可だよな。パートナーって人と一緒に行ったのかな?
それはともかく、最後にはしっかりとお説教をくらったオレ……。が、頑張ろう。
総務部先輩方の話によると、オレのホモ説ってのは、翌日には消えていたそうだ。その代わり、肉食女子4人組から逃げ切ったヤツって有名になったとか何とか。どっちにしろ、嬉しくないこと間違い無しだ。
そんなこんなで波乱の週明けとなったワケだが、その後は何事もなく平和に過ぎ去り、週末である今日、オレはまたゲイバー『優~スグル~』へ来ていた。
「先週末はご迷惑をおかけしました。でもって、ありがとうございました」
スグルママからのお約束となりつつある挨拶――「いつ抱いてくれるのぉ~?」――が終わった後、オレは改めてスグルママにお礼を言った。一応あの時もお礼は言ったけど、礼儀として、改めてお礼言うのは必要じゃないかと思ったんだ。まあ、お礼を言うことでオレ自身が満足したかっただけかもしれないけど。
ちなみにこの日はビール1杯で終了。代わりに来週末また来ることを約束させられた。
来週末はスグルママの誕生日だそうだ。お店に来て一緒に騒いでくれるのが一番のプレゼントだって言われたら、行こうかなって気になるよな。乗せられたのかもしれないけど、まあ、楽しそうだしいいか。
もしかしたら、こんなオレにも出会いはあるかもしれないし。
ちょっと楽しみ。
ともだちにシェアしよう!