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明良 -4
ゆらゆらと、どこかを漂ってるような気がする。
暖かくて、居心地良くて、このままずっとここにいたいような……。
そんな幸せな気分のまま、オレは目を覚ました。
目に入ってきたのは知らない部屋だった。窓の位置も、ベッドから見える部屋の様子にも、全く覚えが無い。
ここはいったいどこなんだろう? 周りを見渡しつつ左を向いたら……、知らない顔がこっちを見ていた。
「オハヨ」
ガバッと起きて離れるオレ。「だ、誰ですか?」
「覚えてないの? 明良だよ、明良。おまえさー、キスんときは鼻から息しろよ」
「えっ、キスッ?」
マジマジと顔を見て、ふと思い出す。この顔、営業部4人組に対して暴言吐いてた人だ。そして次に思い出すのは昨夜のディープキス。もしかしてオレ、この人とキスしちゃったの? 何で?
「マジで覚えてないんだ。あの後大変だったんだぜ、気ぃ失ったアンタをタクシーで連れて来んの。オマエさ、見た目は細っこいクセして、意外と体重あんのな」
「あ、あのっ、……ほ、本当に申し訳ありませんでした――っ!」
ベッドの上で、慌てて正座して頭を下げるオレ。
なんつー失態! オレこの人に迷惑かけちゃったんだ。
あ―、穴があったら入りたい!
「とりあえず、シャワーでも浴びたら? 下着とかは替えなんて無いから、ガマンしてもらうしかないけど、髪とかにタバコの臭いとか付いてるっしょ。シャワーで少しはさっぱりするんじゃね?
あ、アンタのスーツそこな。気になるなら消臭スプレーとか使っていいぜ」
ふと見るとオレは、Tシャツとボクサーパンツって格好だった。
ぬ、脱がされてたんですね。って言うか、スーツがシワにならないようにって、気を使ってくれたんだろうな。
有難くシャワーを貸してもうことにした。シャワーを浴びながら、昨夜の店での会話を思い出す。覚えてるものだけでも悶絶ものだ。恥ずかし過ぎる……。何ペラペラ暴露してんだよ!
そんな悶絶シャワータイムを終えて出て行ったら、なんと、朝食が準備されていた。
「食うだろ?」
「ハイ、ありがとうございますっ」
ドリップしたコーヒーとパンケーキ。有難くいただいた。
パンケーキは明良さんの好物だそうだ。自分では作れないから、作ってもらったのを冷凍してるって話だ。見た目とパンケーキってのがイマイチ合わないんだけど……。そう思って、内心クスッと笑ったのは内緒だ。
食べながらふと明良さんの方を伺う。
がっしりした体躯、無駄な贅肉は無い、切れ長の目、身長は多分オレと同じくらい。全体的な雰囲気は、刃物のような尖った印象。年齢はよく分かんないけど、オレより年上なのは間違い無い。
せめてものお礼にってことで、食器はオレに洗わせてもらった。
「本当にご迷惑をおかけしました。このお礼はどこかで絶対します! 申し訳ありません! ありがとうございました。ってことで、そろそろ帰りますっ!」
昨夜の失態を思い出して、ちょっと焦り気味にお礼を言って、帰るべくコートを手に取ろうとしたところで、オレは明良さんに迫られた。
もう帰っちゃうの?
これからいいことしない?
オレ上手いよ
キス以上のことしてみない?
「あ、ああああのっ、あ、明良さんっ」
耳元で囁かれてドギマギしてるウチに、明良さんの顔が迫ってきた。
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