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宇佐見 -5
宇佐見さんのことが頭から離れない。気がつくと、宇佐見さんのことを考えてしまってる自分がいる。
仕事中は意識して考えないようにしているが、それでも作業が一段落付いたときや、ふとしたときに思い出してしまう。社食や廊下では、つい目が探してしまう。
オレやっぱ宇佐見さんのこと好きだ。なんかもう、好きって気持ちがいっぱいで、気をつけないと、零れ落ちてしまいそうな気がする。
宇佐見さんは、オレのことどう思ってるんだろ?
ちょくちょく晩メシ一緒に行ったりしてるし、嫌われてはいないと思う。オレが女だったら、恋愛感情含めてもしかしたら……って思えるんだけど、宇佐見さんもオレも男だ。ゲイバーの常連だったからって、ゲイとは限らないし、本人からもゲイだって話は聞いてない。
たんに後輩として気に入ってくれただけなのかな? だとしたらオレの気持ちはフタしといた方がいい。告白したのがきっかけで疎遠になるかもしれないし……。
そもそも告白する勇気なんて無い。
何もしなければ、今まで通りに一緒にいられる。
でも宇佐見さんに彼女が出来たら?
そのときオレは笑っていれるんだろうか……。
自分の気持ちを認識しただけで、まだ何も始まってないのに、オレの頭の中は忙しい。ぐるぐるといろんなことを考えて、徐々に後ろ向きになっていく気持ち。
ハタから見たらメンドーなヤツって思うのかな? オレが見る方の立場だったら、きっとそう思う。
でも、いろいろ考えてしまうのを止められないんだ。
『今日メシ行きませんか? 先日のお礼。給料入ったんで、今回はオレが奢ります』
給料日が過ぎて、オレは宇佐見さんにメールした。社内メールじゃなく、スマホへ送っておいた。今日は水曜で定時退社日でもあるから、上手く行けば会えるんじゃないかと思ったんだ。
返事はすぐ来た。嬉しい…。
晩メシにって向かったのは……、チェーンの牛丼屋だった。
「たまたま今日は牛丼って気分だったの。早い、安い、旨い、最高じゃん。牛丼だって立派なメシだぜ」
なんとなく納得できずにブツブツ呟いてたオレに、宇佐見さんは諭すようにそう言った。きっと気を使ってくれたんだと思う。たしかにオレの給料は少ないし……。でも、なんか納得できないなぁ。
「たまには飲みにでも行くか?」
食べ終えて、店を出ながら、宇佐見さんはそうオレに提案してきた。
「じゃ、じゃあ、そこもオレ出します」
「あほっ、少しは先輩を立てろってんの。お前は黙って奢られてろ」
向かった店は、駅を挟んで会社とは反対側にある居酒屋だった。まだ時間が早かったせいもあり、一番奥のこじんまりとしたテーブルに案内された。その店は、各テーブルの間を暖簾のようなもので仕切っており、個室っぽい雰囲気になっていた。
既に牛丼食べた後だったので、つまみは軽いものを何品か注文した。酒はビールだとすぐ満腹になりそうだったので、チューハイメニューの中から選んでみた。
「緑茶割りって……、渋いな、間宮」
「炭酸だとすぐ腹がキツくなりそうで。ウーロン茶より緑茶の方が飲みやすいかなってことでこっちです」
そんなオレに、宇佐見さんはカシスウーロンってのを勧めてくれた。甘い酒って普段飲まないから知らなかったけど、これは、甘さ控えめで飲みやすい。
杯を重ねながら、いろんな話をしたと思う。意味の無いくだらないことや、オレの趣味の自転車のこと、それともう1コの趣味の映画のこととか。楽しい時間、このままずっと続いたらと心の奥で願ってしまう。
ふわふわした、すごく気持ちいいカンジになっていた。ホロ酔いかな? ちょっとだけ酔ったかも。でもまだ大丈夫。
そう思うこと自体が酔ってるってことなんだけど、そのときのオレはそれに気がつかないんだ。
「宇佐見さんてぇ、女性に人気ありますよねー。総務部でも人気高いですよぉ。先輩たちに聞いてこいって言われたんですけどぉ、宇佐見さんて彼女いるんですかぁ? 好きなタイプってどんな人なんですかぁ~?」
聞いてこいって、隣の席の和田さんに言われてたのは本当だ。だからオレは宇佐見さんに聞いてるんだ。自分でも知りたかったけど、でもこれは、オレが知りたかったから聞いてるんじゃない。
何でかわかんないけど、自分で自分を正当化してるオレ。つか、オレ自身が知りたいってのがバレたら恥ずかしいし。
「マジメで素直なコ、流されやすいところもあるけれど、そこ含めて守ってやりたいって思えるコ、スポーツしてるコ、それから、酔っ払うと口調がかわいくなるコ」
「なんか具体的ですねぇ。それって……、実際に好きなコがいるみたいに聞こえます」
「うーん、そうだね……」
そっか。宇佐見さん好きな人がいるんだ。そうだよな。オレってただの後輩だよな。男同士だし、告白なんかもちろんする気は無かったけど、しなくて良かった。
頭の中ぐるぐるで、涙なんか出そうなカンジになちゃったけど、泣くワケにはいかない。
「う、上手くいったらいいですね」
何か言わなきゃって思って、何とかそう言えた。
「ついでに鈍感なコ」
「へっ?」
「ばーか、お前のことだよ。何泣きそうな顔してんだよ」
その瞬間、オレの思考は固まってしまった。
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