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第2話

   次の日曜に、プラネタリウムに行くことが決まった。  家に帰ってからすぐに、誘われたプラネタリウムで何が上映されるのかを調べた。  ⋯⋯星座と神話の特集があるんだ。有名なものしか知らないなあ。確か本棚にギリシャ神話があったはず。  ごそごそと本棚を探って、ようやく一冊の本を探し出した。  彗はきっと、星の神話もよく知ってるんだろうな。これを読んだら、少しでも彗と同じように⋯⋯。  そう思った時に、はっとした。  視差。パララックス。彗はだとも言った。  そうだ、あの時あんなに悲しかったのは、彗との間にずれがあるのが悲しいからだ。あの綺麗な瞳が映すものを、僕も同じように見たい。  いつの間にか、僕の中では彗の存在がとても大きなものになっていた。  日曜日のプラネタリウムは、親子連れが多い。デートらしい子たちもいるけれど、男子の二人組は、ほとんどいない。 「彗は、ここによく来るの?」 「うちの父親がさ、ずっと星が好きで、俺の名前も星から取ったんだ。小さい頃からよく連れて来てもらった」  彗の名は、彗星(すいせい)から取ったと知った。ぴったりだと思う。まっすぐに夜空を走る箒星(ほうきぼし)のように、彗はすぐに星の世界に入ってしまう。  ゆっくりと目の前が暗くなり、頭上のスクリーンに星が映る。わあっと歓声を上げそうになって、慌てて飲み込んだ。隣で慧がくすりと笑う。  夕暮れに星々が浮き上がり、瞬く間に夜の世界に移り変わる。(きら)めく星々の輝きが眩しい。  初めてのプラネタリウムは、驚きの連続だった。  プラネタリウムに行くと言ったら、「眠くなるぞー!」と大学生の兄にからかわれた。  あれは、嘘だ。寝るどころじゃない。こんなに綺麗ですごい世界があるなんて知らなかった。四季の星々が紹介され、特集の星座と神話の世界に移り変わる。オリオンと蠍の物語が終わって、ほうっと息をついた時だった。  ふと隣を見たら、彗が僕を見ていた。僕は慌ててしまった。左手が彗の右手に触れた。あっと思った時には、彗が手を握り返してくれた。彗の手は、僕の手よりもずっと温かい。  ⋯⋯どくん、どくんと心臓が鳴る。口を開いたら、ぽろんと飛び出てしまいそうだった。  彗の手が、わずかに震える。  あれ?  彗も⋯⋯。彗も、もしかして、ドキドキしてるのかな。  一気に頬が熱くなる。プラネタリウムでよかった。こんな顔を見られたら、恥ずかしくてたまらない。握りしめた手からは、お互いの熱だけが伝わってくる。  スクリーンに、一際まばゆく映し出されたのは、シリウスだった。冬天に明るく輝く、青白色の星。 「⋯⋯きれい」 「うん」  ⋯⋯僕たちは今、煌めく星に囲まれて、同じものを見ている。その事実が、たまらなく嬉しかった。  プラネタリウムに行ってから、僕は自分の気持ちがはっきりわかった。  僕は、彗が好きだ。  周りに女子がいない男子校にいるからかな、と思ったけれど、そうじゃない。他の男子には、少しも興味がわかない。こんな気持ちになるのは、彗にだけだ。  彗を見るとドキドキして、胸が痛い。彗の姿が見えないと、いつのまにか探している自分がいる。彗が笑ってくれたら⋯⋯、すごくすごく嬉しい。  ただ、この気持ちは言わない。彗が同性を好きな可能性は無いと思うから。近くにいて、同じものを見られたなら、それだけでいい。

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