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第5話

ちゅ、ちゅく…かりかり、がり…… 「はぁ……かみたい、かみた、…リヴァーダ」 「ふふ、だめだよ。ルドゥロ」 「かみたい、これ、じゃま…」 「だあめ。俺、意外とロマンティストなんだよなあ。  …だから、だぁめ」 **** 『皆々様、ご機嫌いかがでしょうか! それではただいまより第八回五国共同大闘技会を開会いたします!!』 ドンドンと爆音で打ち上げられる花火に、それを掻き消さんばかりの観客の歓声。 ぐるりと舞台を囲むように設置された観客席に所狭しと人間が詰まっているのはいつものことだが、今日はその一部だけ赤い絨毯の引かれた明らかに空気感の違う区間がある。 『まずは、各国の首脳が観客席へと入場されます。皆々様拍手でお迎えください!』 司会の号令と共に闘技場に響く拍手。 それに応えるように手を振りながら、見るからに裕福そうな身なりの男女が例の赤絨毯の区間に並び立った。 拍手が収まってくるとともに彼らは席につき、談笑を始める。 彼らはランド海を囲む5国、それぞれのトップである。 「五国共同大闘技会」。その名の通り、国営闘技場をもつランド海周辺5国が共同で行っている剣闘士試合のことだ。 国間の交流を図り連携を高める、というのが建前で、実際のところは国力の見せつけ合いだ。 闘技会が行われる場所は毎年違う国の闘技場となり、開催場所となった国は闘技場や都市の整備を進め、その他の国は剣闘士の強化に努める。 この国際剣闘士試合では「殺し合いなし」のルールが適用される。一応各国の代表たる剣闘士たちなので殺してしまえば外交的にもいろいろ問題が発生するのだ。 勝敗は関係ないとは言うが、他国の剣闘士に自国が勝てばその国より強いというイメージを与えられるし、他国にアピールも出来る。 国力をアピールしたいミアーネには、今回自国開催の大闘技会は絶好のチャンスなのだ。 当然ルドゥロは代表に選ばれている。 (自国開催のいいところは環境が変わらないところだが、せっかくなら|闘技場外《そと》に出たかったな) なんて思いながらいつもの控室に向かっていれば、そんなルドゥロに声を掛ける者がいた。 「こんにちは。お前がルドゥロ?」 「……ああ、そうだが」 「俺はね、リヴァーダっていうの」 「そうか、君も出場者だなリヴァーダ」 「もちろん!」 背後に立っていたのは、ルドゥロと似たような褐色の肌に短い黒髪の男だった。大闘技会には毎回参加しているルドゥロだが、初めてみる顔だった。 「ルドゥロって強い男がいるって噂はずっと聞いてたんだよな。俺の国では褐色の肌は異端児扱いされるからお揃いみたいで嬉しいぜ」 「そうか」 「お互いうまくいけばどっかで試合できるよなあ。そんときはよろしくな」 「ああ、よろしく」 自分と同年代だろうがテンションはずっと若々しい。 会話もすっかりあちらにリードされてしまって、相槌を打つことしかできていない。 せめて、とルドゥロは自分から手を差し出した。 にへら、と笑ってリヴァーダも手を差し出してくる。 ぐ、と握った大きな手のひら。 ルドゥロはその硬さに驚いた。 大闘技会で顔を見たことがないということは、ここ1年ほどで頭角を現した剣闘士ということになる。やはり体の線はまだ細いし、正直なところ見くびっていた。 だが、この手のひらの硬さ。何度も何度も剣を握った手だ。 「……」 「じゃ!邪魔して悪かったな~」 「ま、まってくれ!」 「ん?」 思わずルドゥロは去ろうとするリヴァーダを呼び止めた。 想像していたよりも強い相手かもしれない、という興奮に心臓が逸る。 能ある鷹は爪を隠す。軽薄ともとれる彼の態度も、そう考えれば…。 だが何と伝えればいい? 傾けた首の角度をきつくしていくリヴァーダに焦りが募る。 残念なことに、少年期から闘技場という特殊環境において孤立してきたルドゥロはコミュニケーション能力が低かった。 「きっ君は、Ωなのか!?」 焦った時あるある1。全然関係ないことを聞いてしまう。 コミュニケーション能力が低いが故に焦ったルドゥロは、はっと彼の首に巻き付いたチョーカーに気が付き、そのままそれを口に出してしまった。 「あ~うん…そうだけど。お前初対面で突っ込んだこと聞くね?文化の違い?」 「い、いや…そうだよな、すまない…」 第二性を聞くことは一般的にタブーだ。親しい友人や恋人などには自分から打ち明けるものであって、尋ねて教えてもらうようなものではない。 ルドゥロはその当然の指摘に肩を落とした。 「ふはっ!いいよ、別に。俺あんま気にしてないし!」 「本当にすまない…」 「いいって!結構聞かれる事あるしね」 そんなに目立つか?これ、とリヴァーダはちょいちょいと首のチョーカーを触る。確かに全体的に黒でまとめられた彼の衣装にチョーカーもうまく馴染んでいるように見えた。 「その、俺はαだからつい目がいってしまったのかもしれない」 「おい、いいのか?第二性ばらしちゃって」 「いいんだ。じゃないとフェアじゃないだろう」 「ははっ!おもしろいなあルドゥロ。でもつい目がいってしまった云々はちょっと他の人にはアウトだからきをつけなよ?」 「ああ」 コクリと頷くとリヴァーダはまたにへら、と笑う。 結局、その時はルドゥロは何も言えぬまま2人は別れる事になった。

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