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第8話
「んっ……、ッ」
「……ッリヴァーダ、…!」
「ど、したの、ルドゥロ…」
リヴァーダが怪我の治療をちょうど受け終わったところで、どたどたとあちこち走り回っていたらしいルドゥロに見つかり、手を引かれてこの控室に連れ込まれた。
文化的にどこの部屋にも扉というものが存在しない国に生まれ育ったリヴァーダにとってこの控室はなかなか興味深いものだったが、それを堪能する間もない。
試合の興奮もそのままにお互い貪り合うような口づけが2度、3度と繰り返された。どちらともなく名残惜し気に唇を離し、今はルドゥロがリヴァーダの首筋に顔を埋めてしきりに匂いを嗅いでいる。
口づけまでは頭に血が上り酩酊状態だったリヴァーダも、流石にルドゥロの状態に困惑を隠せない。何度言っても首筋から顔を離してくれないし、やたらとチョーカーを引っ掻いてくる。
Ωにとって項は急所で、そこを隠すチョーカーは命綱。むやみやたらと触っていい場所ではない。
しかし、リヴァーダはルドゥロの行動が不快ではなかった。なんなら項をさらしてもいいと思えたが、それにしても放してもらわなければどうにもできない。
「ルドゥロ、ルドゥロ…一旦放せよ。な?」
「ううぅ~…」
子ライオンのような唸り声をあげて、ルドゥロは首元でいやいやと首を振る。リヴァーダはくすぐったさに思わず身をよじった。
「んふ、ルードゥロ。めっ!だぞ」
だんだんと項に近付いてくるルドゥロの顔を引き剥がし、ほらこっち、と近くの椅子まで手を引いていく。
ルドゥロには敵わなくてもリヴァーダとて鍛え上げられた筋肉を持っている。されるがままの成人男性を操るのは容易だ。
椅子に大人しく座ったルドゥロの膝の上に、彼に背中を向けるようにして座ると、そんなリヴァーダの腰にルドゥロの太い腕ががっしりと回る。
「ぐえ~普通に苦しいぜ」
「………」
ルドゥロはすっかりリヴァーダのチョーカーの項部分に顔をすり寄せ、甘噛みを繰り返している。黒いチョーカーはよだれでべちょべちょだ。
「おまえさ~それ、ラットだろ?」
「……うぅ~…」
「んふ。でも俺、今ヒートじゃないんだけどな?そりゃ興奮はしたけどフェロモン出してないはずだし…」
「うぐ……におい、するぞ」
「まじ?」
αの発情状態、ラット。一般的にΩの強いヒートに引きずられて起こるとされている。
しかし、ルドゥロの今の状態はまさにそのラットだった。
「でも治療中もここまで来るときも何も言われなかったぜ?」
「…う゛う゛う゛ぅ…」
「あ~~ごめん。俺が他の男に会ってたの言うの嫌だったか」
「ぐぅ…」
「ふふ、ほんと怪我した獣みてえ」
か~わいいなあァ、と腰に回った腕をリヴァーダは撫でる。
「ルドゥロ、噛みてぇの?」
「かみたい…ほしいほしい…!リヴァーダ…」
「熱烈だなあ」
熱に浮かされたように真っ赤な顔で、リヴァーダはにへらと笑う。
腕をひねってルドゥロの後頭部に触れながら
「Ωだったら誰でもいいわけ?」
と問うた。
ルドゥロの頭がぶんぶんと振られ、リヴァーダの手に赤髪がちくちくと刺さる。
「きみだから、リヴァーダ…あんなに血沸き肉躍る試合は初めてだった…!君の強さも美しさも全てが愛しくて……」
「ふふ、うれしい!俺も、俺もだよルドゥロ。
お前の揺れる赤髪も褐色の肌もぶれない剣もぜ~んぶ愛しちゃった」
「リヴァーダ…」
「俺たち変だね?まだ一日も一緒に過ごしてないのに」
「変じゃないさ」
今までと違ってやけにはっきりした声でルドゥロがそう言った。
「なあ、噛んでいいか…」
「ん~~~…だめ」
「どうして!!」
心底絶望したようにルドゥロが悲痛な叫びをあげる。
「今は、駄目なんだよ。お前が正気になっても愛の告白をしてくれなきゃ」
「リヴァーダ…リヴァーダ…わか、ったよ」
口ではそう言いつつも、その手と歯は項を覆うチョーカーを邪魔だというように引っ掻いている。
そのちぐはぐさがどうにも可愛くてリヴァーダは笑う。
「はぁ……かみたい、かみた、…リヴァーダ」
「ふふ、だめだよ。ルドゥロ」
「かみたい、これ、じゃま…」
「だあめ。俺、意外とロマンティストなんだよなあ。
…だから、だぁめ」
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