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第12話

「ルドゥロ、ッ」 「…なんだ、試合中に話しかけてくるとは余裕だな」 リヴァーダと初めて戦い、翌日に別れてから早数か月。 「俺、いい考えがあるんだよな!」とあっさり出ていった恋人を信じて待ち続けてもう長い。 今日のルドゥロの試合相手は年上の髭の濃い男。 リヴァーダと出会って以来「楽しい戦い」のハードルが上がってしまったルドゥロは早々に飽きてしまっていたが、息も上がった相手の方から何やら話しかけてきた。 「み、見逃してくれッ」 「……俺に死ねと?」 「こ、子供、と妻がいるん、だ!俺、が送る金を待ってる!」 「………」 歓声がすべてをもみ消すこの闘技場で、如何にも剣闘士然とした強面の男の必死の命乞いをルドゥロだけが聞いている。 子どもは何人いるのだろう。男だろうか女だろうか。子供がいるのならば妻というのは番だろうか。どんな人物なのだろう。 握った剣を落とそうと右手に向かって振りかぶられた相手の剣をひらりとかわしつつ、ルドゥロは彼の家族に思いを巡らす。 彼は生活に困った家族を養うため殺し合いに身を投じているのだろう。彼が死ねば家族は路頭に迷うのかもしれないし、意外にも強かに生きていくのかもしれない。どちらにしてもきっと…悲しむだろう。 「確かに、愛する人が死ぬのは悲しいだろうな」 「!!わ、かってくれ、るのか!」 ぶん、とまた一振り脇腹めがけて刃先が迫る。 それをよけつつ、ルドゥロはそっと目を伏せた。 「ああ。…想像すると身が張り裂けそうだ」 「そう!そう、だろう!だから…!」 「ああ、だから」 ぐぷ。 男が呆然とした表情で粘度の高い血液を吐いた。白いものが混じっていた髭が赤く濡れる。 目で追えないほどの速さで男の背後に回っていたルドゥロは、彼の腹に刺していた剣をずるり、と抜いた。 「そんな思いを《《彼》》にさせるわけにはいかないんだ」 「が……がふっ」 「正式に番にもなっていないし…悲しむ様もリヴァーダは美しいだろうがそれを見れないのは嫌だからな」 「ぐぅ、があああああ!!」 「すまないな」 血走った眼で最期の力を振り絞って襲ってくる男に、ルドゥロはぐっと眉根を寄せて、容赦なく正面から一突きをおくった。 『勝者、ルドゥロー!!!!』 ウォォォォォォォォォォ!! 息絶えた男を回収にくる運営員達を横目に、ルドゥロはスタスタと舞台を後にする。血のついた剣を早く拭いたかった。 薄暗い選手通路。 バタバタと舞台の準備に奔走する運営員たちと逆走して控室に向かうルドゥロ。それを遮るように立ちふさがる影があった。 「やあ。素晴しい試合でしたよ」

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