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篠山の言うとおり、延長料金はバカ高だった。
15分刻みのお値段設定。
2時間1万円という激安ぶりは、盛り上がってからの延長料金で元をとっているらしい。
篠山本人も、最中に延長して欲しいとねだることはあるそうで、しかし……
「あの、ほんとに延長の分はお支払いします」
「払わせるか」
「え……では、その、食事をごちそうさせてください」
「いらねえって」
新卒社員の懐事情なんて手に取るように分かるわけで、こんな仕事までしなければならないほど困窮しているのならなおさら、おごりなんてさせるわけにはいかない。
「いいよほんとに。金、困ってんだろ?」
「……? いえ、特には」
「ええ? じゃあなんで、デリ……副業なんかしてんだ?」
「それは……その、趣味と実益を兼ねて、といいますか」
何度も、『セックス好きですか?』と聞いてきた。
言葉責めプレイか何かかと思っていたが、これは、素で聞いてきた可能性が高いぞ。
「恋人作ればいいだろ」
「そんなこと……できる性格に見えますか」
「ヤッてるときの積極性があればいけるだろ」
心底そう思った。
しかし篠山は、ふるふると首を横に振る。
「そこまでいければ、まあ話せます。でも、そこに至るまでが絶望的に無理です」
「客は?」
「みんながみんな、安西さんみたいに綺麗なわけじゃな……って、あっ、」
言った張本人が、目をまんまるくして、口元をパッと抑える。
「す、すみません。失礼なこと言って」
「客に?」
「いえ、その……会社の先輩の顔を、評価するみたいな、おこがましいことを」
いや。さっきまでの、散々可愛いだのなんだの言ってた方が、よっぽど失言だ。
なぜそこまで赤くなるかと聞きたくなるほど、耳まで真っ赤になっている。
オレは、ぼりぼりと頭を掻きながら言った。
「んなもんお互い様だろ。オレだって元々は、子犬のような~の文言に釣られて頼んでんだから」
「ご期待に添えずすみません。盛りすぎだから変えてほしいと、いつも言ってるんですけど」
「いやあ? 合ってんじゃね?」
篠山はますます目を丸くし、固まっている。
「……篠山?」
「あの。その、もう帰ります。居れば居るほど料金がかかってくるので。埋め合わせは後日っ」
「おい、ちょっと!」
引き止める手を振り払って、バタバタと出て行ってしまった。
しばし呆然としたのち、盛大なため息をつく。
ばさばさと頭を掻きながら、ソファにどっかりと座った。
「はー。…………まじかー」
思わせぶりなこと言いやがって。
いや、恋人がどうとか口にした、オレの方が探りを入れていたか。
完全に世話話のつもりだったが、これはしくじった気がしてならない。
ふとベッドを見ると、ぐちゃぐちゃにしわが寄ったシーツが目に入った。
あの上で、犯されるみたいにめちゃくちゃに抱かれて、甘い言葉もいっぱい言われたし、何度もキスして――
「やべーな」
2日連続で、後輩とヤッた。
こんな事実だけが残った。
布団に入るたびあれを思い出すんじゃ、ろくに眠れねえぞ。
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