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 ふたりで、狭い湯船に浸かる。  篠山にバックハグされるような格好で、盛大に照れてしまう。  思い描いていた甘々のシチュエーションで、幸せすぎた。 「篠山……早速当たってんだけど」 「当たり前じゃないですか。好きな人とこんな状況で、反応しない方がおかしいですよ」  ね、と言って、綺麗な手がオレの下腹部をなぞる。 「……安西さんだって、人のこと言えないじゃないですか」 「ちがっ。お前が意識させるようなこと言うから」  お湯の中で、ペニスを扱かれる。  ジャブジャブと波立つ音に混じって、甘ったるい声を漏らしてしまう。 「ん……、はぁ」 「可愛い。こっち向いてください。キスしたいです」  半身だけ振り返ると、篠山は口の中に舌を差し込んできて、くまなく犯しながら、手淫を続けた。 「んぅ……っ、ん、ふぅっ」 「気持ちよさそう。でも、お付き合いして初めてのエッチがお風呂じゃ、情緒ないですよね」 「ぁぅ、手、離せ……、イッちゃ……ぅ」 「イキたいですか?」 「ここじゃやだぁ……っ」  篠山は満足そうに笑いながら手を離し、腰が砕けたオレの体を引き上げた。  脱衣所に引っ張られ、あっという間に拭かれ――その間もずっと、あちこち舐めたり撫でたりされていて、オレの意思はほぼない。  そのまま横抱きでベッドに運んだ……と思ったら、思い切り放り投げられた。  そして、獲物をとらえた肉食獣のように、オレのひざを割ってペニスを咥え込む。 「あ、ぁ……っ、やめ、いきなりっ、」 「一回イッてください。じゃないと俺、無理させちゃいそうで」  余裕のなさそうな声。  濃厚なフェラチオをしながら、しつこく乳首を攻めてくる。 「あンッ、あっ、イ……ッ、ぁあああああ…………!!」  びくびくと跳ねる腰を押さえつけて、全て飲み込んだ。 「…………っ、大丈夫ですか?」 「んぅ、……おさまんない」 「ですよね。ごめんなさい。でも、安西さんのエッチな顔見たくて、ちょっと、抑えられそうになくて……」  と言いながら、勃起したままのものに、妖しい手つきで触れてくる。  どんな魔術を使っているのかと問いただしたくなるほど、身体中が性感帯になって、溶けてしまいそうだ。 「あ……っ、はあっ、んっ、ぁ」 「好きって言ってくれて、本当にうれしいです」 「んっ、……ぁあっ、だめ、あぅ」 「ここ気持ちいいですか? 安西さんの気持ちいいところ、いっぱい探しましょうね」 「ふぁ……っ」  いつの間にやらローションを取り出し、指をつぷりと埋めてきた。 「俺、あの仕事に関して深い意味は感じてなかったんですよね。でも……」  指が増える。中を擦られて、声が裏返る。 「予約表に『安西周』って書いてあるの見たとき、人生で一番くらい興奮したんですよ。会社バレの恐怖もありましたけど、でも、本当に安西さんだったら……って」  濡れた瞳で見下ろされて、ゾクゾクする。 「な、……んっ、んぅ」 「だって、安西さん、かっこいいじゃないですか。優しいし、仕事できるし、俺みたいなのに気遣って、飲み会でも浮かないようにしてくれたり。そんな完璧な先輩が乱れるところなんて。……ほら」 「ひぁ……ッ」 「ここ、気持ちいいですよね」 「や、そこ……っ、だめ、ぁあっ」  しつこく同じところを攻め続けられて、訳が分からなくなってくる。  体をよじっても押さえつけられて、より深いところをまさぐられてしまうので、逃げられない。  唐突に、ずるりと指が引き抜かれる。  篠山はうっすら笑いながら、コンドームの袋をたぐりよせた。 「安西さんの中に入ったら、いままで誰かとのセックス中に感じてきた安心感なんて、ちゃちなものだなと思いました」  オレの脚を掴み、ぐっと持ち上げる。  後孔にペニスをくっつけながら、独り言のように続けた。 「ここに挿れると……ぶわっと、セロトニンとアドレナリンが」 「ん……、ぁ……っ」 「気持ちよくて、幸せで、胸が苦しくて、」 「ふ、ぁ、…………っ、んんっ」 「めちゃくちゃ興奮するけど、めちゃくちゃ寂しかったです。これっきりかもって思って、不安になるから、何度も『セックス好きですか』って聞いちゃったりして……あとで、何やってんだろって自己嫌悪に陥ったり」  ずぷずぷ沈んできた体が、最奥に届いた。  腹の中がパツパツで、体の地味な揺れでも、大仰に喘いでしまう。 「ああっ、んっ、まだ動くの、だめ……っ、」 「ダメですか?」 「んんっ、いまだめ、……だめ、ぁ……」 「動いてないですよ」 「あー……、あ、あ……っ」 「呼吸するだけで感じてます?」  篠山がゆるゆると動き出す。  オレは自分の手の甲を噛んだ。 「んん……っ、んぅ」 「声我慢しないでいいですよ。顔も見せてください」 「は……、ゃらぁっ、だめ、あぅ」 「いっぱいイッてください」  パンパンと、激しく肌がぶつかる音が響く。  えぐるように前立腺を突かれて、思わず身悶えた。 「ひぁ……っ、ぁあっ、あ……ッ、イッ、」 「……っ、はぁ、やばいです」 「やだ、またイッちゃ、…………ぁあああッ!!」  びゅくびゅくと吐き出しながら、涙がにじむ。  篠山はその精液を広げるように、人差し指でねっとりと、へその周りを撫でた。  その間にも激しく奥を突かれていて、訳がわからなくなってくる。 「あんっ、あ……ッ、しのやまぁ、」 「可愛い。呼んでくれるの、うれしいです」 「んん……、きもちぃ、変……っ、も、なんで……っ」 「すぐイッちゃいます?」  こくこくとうなずく。  シーツを強く握りしめると、篠山はオレの首元に顔を埋めながら言った。 「俺、魔法使えるんですよ。安西さんのこと、いっぱいイかせられるの。なんでか分かりますか?」 「わ、かんな……っ」 「大好きだから。こんなふうに」 「あぁっ、…………ッ!!」  絶頂。しかし、精液は出ない。目の前がチカチカする。 「空イキしちゃいました?」 「ん、ふぅっ、……っ」 「ダメだ、やっぱり無理させちゃいますね。全然自制きかない。すみません」  と謝りながらも、腰を振るのはやめない。  オレだって『やだ』とは口ばかりで、本当はその体にしがみついて、もっともっとと欲しがっている。 「はぁっ、も……、激し、……ひぅ」 「…………っ、安西さん、ごめんなさい。ほんとに、抱き潰しちゃうかも」 「ん、……して、してっ」 「あー……もう。ほんとに」  篠山は、汗ばんだ額に張り付く髪を掻き上げながら言った。 「あと、実は俺、自分がイくタイミング自在なので。一晩中イかずに抱き続けるのも、何回も何回も出すのも、どっちもいけます。どっちがいいですか?」 「……っ、だして、いっぱい。気持ちよくなってほし……っ」 「じゃあ、1回出させてください。でもそのあとも、たくさんしたいので。……って、やばっ。安西さん、さっきより締め付け……」 「ぁんっ、あん、しのやまぁ、すきっ、好きぃ……」 「…………ッ、イク」  篠山は眉間にしわを寄せながら、オレの体をめちゃくちゃに突き上げ、吐精した。  余韻を味わう間もなくずるっと引き抜いたそれは、射精直後とは思えないほど強く勃起したままだ。  ゴムの先を雑に結んで捨て、間髪入れずに新たなものをはめる。 「お互い気が済むまでエッチして、とろとろになって、溶け合うみたいに一緒に眠りたいですね」 「ん……。オレ、なるべくくっついて、篠山に甘えて寝たい……」  篠山はオレの横に寝そべり、真面目な顔でぎゅうっと抱きしめると、ちょっとうれしそうにささやいた。 「安西さん、大好きです」  ぐずぐずになった後孔に、熱い塊が再び侵入してくる。  ガクガクと体全体を揺らすように奥をつきながら、篠山も息を切らしている。  ――たくさん甘やかしたいですね  そんなことを、意識を飛ばす目前に、言われた気がする。

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