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6章 好きが止まらん
「篠山くん、ちょっといいかしら」
「はい」
なんか最近、篠山が、職場に馴染んできている気がする。
いや、それ自体はいいことだ。
いいことなんだ。
しかしなんでだろう……なんか、女がやたら、寄ってきているような……。
篠山と付き合い始めて、1ヶ月と少しが過ぎた。
我が社は2月が決算月で、末日までに締めなければならないものの処理でてんやわんやだ。
「篠山ー。帰るぞ」
「はい」
付き合って以来、よほどの仕事がなければ、一緒に帰ることにしている。
最初は恥ずかしがっていた篠山だったが、最近は慣れたのか、オレが呼びかければ素直に帰り支度を始めるようになった。
社内ではどうやら、『安西が、あの根暗新卒を手懐けた』みたいな評価らしい。
でも、実際はそうではなくて。
地味に混んだ電車内で、ただの先輩後輩にしては近すぎる距離に立つ。
「つっかれたぁ……」
「家帰ったらマッサージしましょうか」
「それどうせまたエロくなっちゃうんだろ?」
「こっ、声が大きいですっ」
降りる人の流れのどさくさにまぎれてちょっと甘えてみると、篠山もまんざらでもないようで、「仕方ないひとですね」とかなんとか言いながら、頭をぽんぽんと撫でてくれた。
癒し。疲れが吹き飛ぶ。
平日は、若干会社から近いオレの家で過ごし、土日は篠山の家に泊まる。
篠山はスーツや部屋着などをウチに置くようになって……まあ要するに、半同棲というやつだ。
「早く一緒に住みたいですね」
「なー。しっかし……」
会社に転居の届け出をしたら、付き合っていることがバレてしまう。
このことに気づいたとき、オフィスラブの最大の弱点はそこだったと、ふたりで落胆したものだ。
現状維持がベストなのかなあ、と思う。
玄関に入るなり、篠山が俺を壁際に追い詰めた。
「お!? わっ」
「安西さん。キスしたいです」
「ん……っ、ふぅっ」
篠山はオレの側頭部の髪を梳 きながら、舌を差し込み、ちゅくちゅくといやらしい音を立てる。
「んむ……っ、ん」
「……っ、可愛い。一日お預け、きついんですよね。すぐ斜め向こうにいるのに、触れなくて」
「だからってこんな、……、んぅっ」
「好き。安西さん、すき。だいすき」
まあオレとて、お預け状態で働いて過ごしているのは同じだ。
毎日こんな感じで、帰宅早々お互いの成分を摂取する。
簡単な料理を振る舞うと、篠山は品良くもりもり食べる。
元々あまり酒は飲まないタイプらしく、オレがビールを飲むのを、なんだかうれしそうに見ている。
最近、Fire TV Stickを買い、テレビでスマホ動画を見られるようにした。
篠山が居ることが、当たり前の生活になりつつある。
それはとても居心地がよくて、ずっとぬるま湯に浸かっているような。
オレが2本目のビールを飲み終えたところで、篠山がテレビを消し、ソファの座面に手をついて身を乗り出してきた。
「マッサージしますよ。寝っ転がってください」
「やったー」
素直に甘えて、ごろんとうつ伏せになる。
篠山は指圧で腰の辺りをほぐしながら言った。
「会議のあと、フォローありがとうございました」
「なんだっけ?」
「朝倉さんに話しかけられて、言葉が詰まっちゃったとき」
「あー、なんかそんなんあったな。いてて」
総務のアラサー女。
なんだか最近やたらと篠山に話しかけてくるので、密かに警戒している。
「安西さんが会社でよく話してくれるようになってから、他の人とも少しずつ話せるようになってきてて」
「まあ、篠山に聞いたら全解決みたいなこと、よくあるしな。みんなが気づき始めたってことで。……あ、そこ気持ちいい」
「ここですか?」
「ちょっと下」
篠山の声が、耳元に近づいてくる。
なんだと思って顔を上げようとしたら、耳をかぷっと噛まれた。
「うわっ、なに」
「安西さん、腰以外にも気持ちいいところいっぱいあるじゃないですか」
「……おまえなあ」
「こことか、境目ですよね。マッサージとエッチなのと」
内ももをぐにぐにと開くように押されて、思わず「んっ」と小さく声を漏らしてしまった。
「安西さんは素直で可愛いです」
「はあっ、もう。どっちかにしろよ」
「じゃあエッチな方で。ベッド行きましょう」
ひょいと抱えられて、首にしがみつく。
仰向けに下ろされると、覆いかぶさってきた篠山は、妖艶な笑みを浮かべていた。
「体ほぐしてからしましょうか。その方が気持ちいいですよ」
篠山はベッドボードを探り、マッサージオイルを手に取った。
最近なんとなくふたりで集めていて、休日の出かけ先で見かけたときに、買ってみたりしている。
きょうは柑橘系らしい。
深いキスをしながら、温かい手のひらで、上半身全体に塗られる。
乳首や脇など、敏感なところをしつこく触られて、思わず身悶えた。
「……っ、ん、」
「ほら、先っぽすりすりしたら、乳首勃ってきましたよ。ぷっくりして」
「い、言うなぁ」
「ぎゅーって引っ張るのと、爪の先でカリカリするのと、弾くの、どれが好きですか?」
「んぅ、…………ぜんぶ」
「かわい」
胸の筋肉をほぐしつつ、的確に乳首を攻められる。
早く下を触って欲しくて、足を擦り合わせてしまう。
「安西さん、おねだりうまくなってません?」
「ねだってる……わけじゃ、」
「じゃあ、誘ってます?」
「ちっが……」
篠山は軽く息を吐き、太ももにキスを落としながら言った。
「お疲れのようですし、きょうは長めに上半身ほぐそうかなあと思ってたんですけど。俺が無理なのですみません」
オイルでぬめった指が侵入してくる。
くちくちといやらしい音がして、思わず腰が浮く。
2本、3本……と増えて、前立腺を押しながら、入口や奥まで丹念に馴らされる。
元々、手先は器用なのだそうだ。
こんな子犬みたいな顔で、なんてことないように超絶技巧を繰り出してくるのだから、たまらない。
「もーだめ……、挿れて」
「奥、欲しいですか?」
「なんでもいいからぁっ、篠山の、挿れて、突いてほし……っ」
「きょうはずいぶんと煽りますね」
苦笑いをしながらコンドームをはめる。
オレは四つん這いになり、顔を枕に埋めた。
「うわ……すごい、エッチな光景です」
「実況しなくていいからっ」
「ふふ、すみません。安西さんって、先にこういうこと言っておくと、あとでめちゃくちゃエロくなるんですよ」
「知らな……ぁ、」
太いものの先が、ぐぽっと入ってくる。
篠山はオレの腰を掴むと、浅いところをゆるゆると突いてきた。
「……っ、ふ、ぁ」
「奥もいいけど、ここも気持ちよくないですか?」
「き、きもちぃ……」
平衡 感覚がなくなる。
篠山が揺らしているのか、自分が揺れているのか、区別がつかなくなってくる。
「10秒後に奥突きます」
引いた姿勢で止まったまま、のんきな声で、「じゅーう」「きゅーう」と数え始める。
このあと来るであろう快感のことを思うと、頭がおかしくなりそうになる。
「はーち、なーな」
「ひぅ、」
「ろーく……ごー……。ほら、まだまだ。我慢して」
「んっ、…………くっ」
「よーん、さーん……。すごい、うねってきた」
「……んん」
「にーぃ……。いーーち」
一瞬の静寂。
そして篠山は、聞こえるか聞こえないかくらいの低い声で、ぼそっとつぶやいた。
「ゼロ」
「ひあぁぁああぁあ…………ッ!!」
ドンと腹の奥を突き上げられるのと同時に、派手に射精する。
全身に電流が走ったような快感が駆け巡り、あり得ない量の精液ぼたぼたと垂らすと、篠山はうれしそうな声で言った。
「可愛い可愛い可愛い。可愛すぎますよ、安西さんっ」
「ぃ、イッちゃ、た……ぁ」
「ご所望は奥でしたね。はい、じゃ、トントンしますよ」
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