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朝起きて目に飛び込んだのは、土下座する篠山のつむじだった。
「たいっっっへん、申し訳ありませんでした」
「……いや、いいんだ。お前のせいじゃない」
「いえいえいえ。もう、失礼すぎることを……あー本当にすみません」
自己嫌悪に苛 まれているのか、頭を抱えてうつむき、軽く首を振っている。
「そもそもで、オレが『薬飲んでふわふわ状態でエッチしたらどうなるかな~』なんてアホなこと考えたのが悪い」
「違います、ぼやっとしていたとはいえ失礼千万な発言や行為を繰り返したのはこちらですのでっ」
こんな早口な篠山、見たことがない。
「とりあえず顔をあげなさい」
「はい……」
眉を八の字に下げ、叱られ待ちの子犬みたいな顔をしている。
オレはぷっと噴き出し、さらさらと頭を撫でた。
「怒ってないから。それより、きのうの夜寝る前に話したこと、覚えてるか?」
「えっと……4月からの話、でしたよね」
「そそ。んで、きょうから内定済みインターンの子が3人来るから」
「え!? そ、そうでしたっけ。……すみません、覚えてなくて」
慌てて鞄を取りに行こうとするのを、ゲラゲラ笑いながら引き留める。
「教えるのは全部オレがやるから。篠山先輩はいつもどおり静かに仕事しててください」
「……はい」
そしてなぜか突然、意気消沈している。
「ん……? どした? 緊張する?」
「いえ、……ちょっと、馬鹿げたことを考えてしまいまして」
なに、と促すと、篠山は目を泳がせながら言った。
「安西さん、かっこよくて仕事完璧で、新人にも優しかったら……その、大人の魅力といいますか。年上への憧れみたいなものも……女子社員の中には、あるのではないか、とか。すみません」
オレは片頬を噛んで、無理やり笑いをこらえる。
篠山はなんだか青ざめていて、そのことには気づいていない。
「子供っぽくてすみません」
「んー? オレはうれしいけどね、やきもち妬いたり過剰に心配されたりするの」
「……ほんとですか? うっとうしくないですか?」
「ううん。ちょうどいい。オレ、重いから」
窓の外を見る。
川沿いに植わった桜のつぼみが、膨らみ始めている。
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