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8-2
夜、帰宅するなりソファに倒れ込んだ篠山を見て、思わず笑ってしまった。
「疲れてんなあ」
「人の出入りが激しいと集中できないんです……」
いつもならジャケットを丁寧にハンガーに掛けるのに、きょうの篠山にはその体力すら残っていないらしく、適当に畳んでソファの背に掛けた。
「マッサージしてあげよっか。うまくできるか分かんないけど」
「えっ? いえ、そんなことさせるには」
「なんだよ水くさいなー。この間買ったオイルちょっと試したいし。脱げ脱げ」
無理やり転がして仰向けにし、ネクタイをしゅるりと抜き取る。
ひとつずつボタンを外していくと、篠山は恥ずかしそうに目をそらした。
「なに、その生娘みたいな反応」
「すみません。その……いやらしい想像をしてしまいまして」
正直な奴め。
膨らんだ股間にそっと手を這わせると、篠山は顔を真っ赤にした。
「すみません、せっかくご厚意で申し出ていただいたのに……」
「はあ? ご厚意なわけないだろ。下心満載だわ」
オレの、十分に固くなったそれを、太ももに押し付ける。
篠山は目を見開いて驚いたあと、じとっとした目でオレを見上げた。
「誘われた……と解釈していいですか?」
「もの分かりが良くて優秀だね、篠山は」
ニヤリと笑い、ボタンを外す作業を再開する。
割れた腹筋に舌を這わせると、篠山はすぅっと小さく息を吸った。
半同棲を始めて驚いたことのひとつに、こいつが毎晩自重トレーニングを欠かさないこと……というのがある。
超ガリ勉みたいなタイプかと思いきや、中高時代は陸上部で、ハードル走をやっていたらしい――曰く、個人競技で気が楽だったから、とのこと。
かつての副業で体力が無尽蔵だったのは、このような背景があった。
「ベッド行こ?」
「……だっこしていいですか」
先ほどまでの、疲労限界みたいな倒れ方をしていたのはなんだったのか。
ひょいと立ち上がり、軽々とオレを横抱きにして、ベッドに運ぶ。
壊れものを扱うみたいにそっと置かれて、キュンとしてしまった。
「新しいオイル、試したいですね。ちょっともったいない使い方してもいいですか?」
「……? 別にいいけど。結局オレがされんの?」
なんだ? と思っていたら、篠山は豪快にボトルを逆さにし、直接太ももの上に垂らしてきた。
ほのかなオレンジの香りに包まれ、リラックス……する暇もなく、足から下腹部を撫で回される。
「ん、んっ」
「こうすると、むくみも取れるし老廃物も流れるんですよ。気持ちよくないですか?」
「……っ、きもちぃけどぉ、」
「けど、なんですか?」
「ん……物足んない……。分かれよ」
「ふふ。いじわるしてごめんなさい」
勃ち上がったものに、触れられる。
ぬるぬると上下にしごかれて、思わず腰が浮いた。
「……ぁ、あ」
「すごい。エッチですね、安西さん。会社の人が知ったらびっくりしちゃいますね?」
「なんか篠山、きょう、いじわる……っ」
「猛烈な嫉妬と戦いながら仕事してるんで、疲れるんですよ」
「ん、なに……、がぁ」
「万人に平等な安西さんを見てると、正体不明のもやもやが」
中にぬるりと指が入ってきて、遠慮なしに前立腺を押された。
「ひぅ……ッ、ゃ、あ……っ、ンッ」
「このオイル、優秀かもですね。滑らかなので、ほら、こんな風にスルッと」
「ああっ、……だ、ぁあン」
上擦った声が漏れる。
シーツを掴むと、その手にキスされた。
「安西さんに、魔法をかけます」
「ふぇ……?」
「挿れた瞬間にイッちゃう魔法。泣きながらビクビクしちゃうかも」
背中がゾクゾクする。もう分かっている。
この『魔法の予告』で、既に魔法にかけられてしまっていることは。
前も後ろも、手技でぐずぐずにほぐされる。
絶妙にイキそうでイかないところばかり触ってくるから、頭がおかしくなりそう。
泣いて懇願しそうになるのを、寸でのところで踏みとどまっている感じ。
「限界ですよね。挿れていいですか?」
「ん、んぅ……、して、早く」
「その前にキス」
激しく口づけながら、ペニスを後孔の周りにおしつけてくる。
わざと何度も滑らせて、ギリギリ挿れない。
そんなことを繰り返されるうち、理性が保てなくなってきた。
「もぉ、篠山、挿れて……っ、ちんこ、奥欲し……っ」
「中に出していいですか?」
こくりとうなずくと同時に、心臓が痛いくらいドクドクと鳴る。
篠山はオレの脚を高く上げ、肩に乗せた。
「泣いて悦ぶ安西さんが見たいなー……」
と言った瞬間、ドンッと一発、奥を突かれた。
「ああぁああああ…………ッ!!」
絶頂とともに、大量の精液を派手に撒き散らした。
魔法成功。長く長く快感が続く。
体がビクビクと跳ね、ぎゅうっと瞑った目から、ボロボロと涙がこぼれる。
「締め付けやば……気持ちいいの、止まらないですよね」
「ふぁ、……ぁ、あ、止まんない、しのやま、こわぃ」
「怖くないですよ。気持ち良すぎちゃってるだけです」
たった一発で何十秒もイキっぱなしで、ビクつく体を自分で制御できない。
徐々に快感の波が去り、呼吸を取り戻すと、篠山はオレが息を整えるのを見届けてから、目を細めて笑った。
「俺も気持ちよくなっていいですか? 安西さんのお尻使って」
「ん、して、オレのお尻で気持ちよくなって……」
篠山がゆるゆると動き出すと同時に、オレは再び嬌声を上げた。
激しい動きではないのに、全身が快楽に侵される。
「あーっ、あッ、ああー! ぁっ、……あッ!」
「安西さん、ぐちゃぐちゃ」
「はっ、はぁっ、きもちぃ、しのやまぁ」
篠山は緩急をつけて巧みに中を突き、ときたま小さくうめいている。
オレは首の後ろに手を回し、しがみつきながら、何度も上り詰めた。
「…………っ、イキそ」
ボソッとつぶやいた篠山は、眉間にしわを寄せ、激しく腰を振る。
「中、出しますねっ」
「はぁっ、だして、いっぱい……っ、篠山のせーし欲しぃ」
「…………、イク……」
腹の中で、ドクドクと脈打つのを感じる。
オレは息を詰めて、その感触を味わった。
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