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 連休のど真ん中。天気は快晴。  少しだけ開けた車の窓から、初夏の風が入ってくる。  ハンドルを握る歩夢の黒髪がさらさらと揺れるのが、あまりにもきれいで…… 「安西さん? どうしました?」 「あ、いや。次のサービスエリアで交代しような」 「まだ平気ですよ」  移動手段を話し合った結果、レンタカーを借りて、気ままなふたり旅を楽しむことにした。  歩夢がコソコソ調べていたのは、乗り心地のよい車だったようだ。 「意外だよなあ、歩夢が運転うまいの」 「田舎は車がないと生きていけないので。脱輪即ち死みたいなあぜ道を通らないと、最寄りのスーパーに行けないんです」 「へー」  と、気の抜けた返事をしているが、内心ドッキドキである。  女の子がよく、『バックするときの男の人の横顔が好き』なんてことを言っていたりするが、いまならすごくよく分かる。  サービスエリアの駐車場で、全方位をでかいファミリーカーに挟まれた空間に一発で入れたときは、キュン死するかと思った。  ポンッとナビの音が鳴って、無機質なアナウンスの声が聞こえた。  ――この先、分岐が続きます  道路標識を見ると、なかなか複雑だ。  しかし歩夢はすいすいと車線変更していき、難なく目的地へのレーンに乗る。 「やべ、一生乗ってたいわ。お前の運転、乗り心地良すぎ」 「一生は困りますね。エッチできないじゃないですか」 「ぶ……ッ! おま、これドラレコついてんだぞ」  オレが慌てるも、歩夢は涼しい顔のまま、進路を見据えている。 「車内の音声は、録音オフにしてます。なので、万が一安西さんがものすごく恥ずかしいことを言ってしまっても、俺しか聞いてません」 「……そうかよ」  急に恥ずかしくなって、意味もなくバックミラーを見る。  若いカップルのようで、小さな鏡越しでも、付き合いたてほやほやなのかなというような仲睦まじさが見えた。  不意に、朝倉さんの目には、オレたちがこんな風に見えていたのだろうか……と考えてしまい、さらに恥ずかしくなった。 「おお~すげえ。思ったより広いし綺麗だな」  通された和室に入るなり、年甲斐もなくはしゃいでしまった。  老舗の旅館。夕食は部屋で懐石料理。天然温泉の内風呂付き。  荷物を放り出しあちこち見るのを、歩夢はクスクス笑いながら見ている。 「床の間まであって、豪華ですね」 「風呂どんなだろ」  掃き出し窓をカラカラと開けると、ヒノキ造りの露天風呂があった。  掛け流しの天然温泉で、疲労回復や腰痛なんかに効くのだと、説明に書いてある。  部屋ごとについた風呂なので、他人が入ってくることはなく……まあ、イチャイチャし放題ということで。  時刻は16:00を過ぎたところで、夕食まではまだ時間がある。 「飯の前に、その辺散策する?」 「そうですね。5分くらい歩いたところに神社の参道があって、お土産物屋さんが並んでいるみたいですよ」 「下調べバッチリだな」 「……これでも結構、はしゃいでます」  ぎゅうっと抱きしめられる。  日常とは違うシチュエーションだからか、これだけでドキドキしてしまう。  歩夢はするするとオレの髪を撫で、うれしそうに目を細めると、子犬顔を近づけてきた。 「キスしたらその先も我慢できないと思ったので、夕飯食べ終わるまで控えようとしたんですけど……。やっぱり我慢できないので、キスはしちゃいます」 「ん」  軽く唇が触れて、思わず小さく吐息を漏らすと、口ごと食べるみたいに大胆にキスされた。  抱きしめる腕に力を込めると、舌がぬるっと入ってくる。 「ふ……ぁ」 「がまん、我慢がまん……」  ブツブツ唱えながら、唇をくっつけるのと離すのを繰り返している。  舌で口の中をなぞられると、ゾクゾクと背中が粟立った。 「だめ、歩夢……ストップ」 「……理性が失われそうなんですけど、…………お土産見に行きましょうか」  苦渋の決断、みたいな顔で、思わず笑ってしまった。

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