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「そう、葵ね。よろしく。で、俺たちのことは知ってる?」
また葵は首を振って答えた。やはり知らずに着いてきたようだ。
「三年の長谷部美智。そっちが緒方彰吾。覚えられる?」
「長谷部さん。緒方さん」
「えらいね」
ただ名前を繰り返しただけだというのに、ゾクリと背筋を震わせる。もっと呼ばせたい、そんなことを思わせた。褒めてやると、葵の口元が嬉しそうに綻んだから余計かもしれない。もっと戸惑わせ、苛めて、可愛がりたくなる。
「葵は学ラン似合わないね。脱いだら?」
どう考えてもおかしい提案だ。でもそれすら葵は困り顔にはなるけれど、言い返してはこない。逃げることもしない。この先に待つことが何なのか、ちっとも理解していない素振りだ。
「皺になったら困るし、ね。彰吾にも手伝ってもらおうか」
目配せをすると、彰吾は葵の後ろに周り、彼の詰襟の一番上に留まるホックへと指をかけた。自分の手で脱がせたい気持ちはあるが、葵の表情を正面からじっくりと観察することを美智は選ぶ。
「……あの、どうして」
躊躇いがちではあるが、葵はようやく疑問を口にした。ボタンに触れる彰吾の手に己の手を重ね、止める素振りも見せる。
「どうしてだろうね?葵が可愛いから、遊びたくなっちゃったのかもしれない」
葵は美智の言葉にぴくりと肩を震わせた。そして背後の彰吾、それから閉め切られた教室の扉に視線をやると、最後にまた美智に目を向けてきた。
いよいよ危険を感じて逃げたがるだろうか。そんな美智の予想を大きく裏切る台詞を葵は口にした。
「痕が残ったら、困るんです」
どうやら美智たちの目的を察した葵は、二人を相手に抵抗は無駄だと判断しただけのようだ。だから葵は諦めた上で、二人にリクエストをしてきた。
ますます葵に興味が湧いてくる。
「へぇ、それはどうして?」
「怒られてしまうから」
「誰が葵を怒るの?彼氏?」
それ以上は答えられないらしい。葵は口を噤んでしまった。
「痕さえ残らなければ、何されても受け入れるって解釈でいいのかな。どう?彰吾」
いつもと立場が逆だ。選択を迫るのは美智であり彰吾。捕らえられた獲物が、離せとか、やめろとか、そんなことをキャンキャンと喚くことならあるが、こんな風にセックスの条件を突きつけてくるなど有り得ない。
「どうって、今めちゃくちゃに泣かせたくなってる」
ギラついた目をする彰吾が再びボタンに手を掛けた。一つ、二つと性急に外して見せても、葵はもうそれを止めることはしない。
大人しく身を委ねられるようなセックスはただ退屈だと思うが、葵は二人に抱かれることを望んでいるわけではない。肉体的に抵抗をしないだけで、心はきっちりと閉ざしたのだろう。教室で見せていたぼんやりと遠い目をする葵を見て、美智も彰吾と同じ気持ちになっていた。
人形のような見た目通り、感情の起伏が見えない葵を泣かせ、欲情させたい。
机を数個繋げて並べた上に横たえさせても、葵は宣言通り抗うことはなかった。詰襟を脱がせ、中に着ていたワイシャツのボタンを外して開く際には恥じらうように顔を背けたが、その程度。
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