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葵の所在がわかったのは終礼のタイミングだった。担任から、葵が今保健室にいると教えられ、颯斗は気の進まないまま、二人分の荷物を持ってそこへ向かう。 驚いたのは葵が眠るベッドの脇に、美智と彰吾、二人の姿があったからだ。 「葵のお世話係なんだって?まさか、君が彼氏?」 颯斗のことは葵からか、それとも隣の部屋にいた保険医からでも聞いたのだろうか。颯斗を見てくる美智の目が値踏みするようなもので、不愉快だ。 葵のことを平然と呼び捨てる様も、偉そうな態度に拍車を掛けている。 「どう見ても違うだろ。こんなガキに仕込めるとは思えない」 「それもそうだね」 彰吾の言葉尻にも、颯斗を馬鹿にするような色が込められていた。なぜ初対面の二人に失礼な物言いをされなくてはならないのか。 「一応言っておくけど、和姦だからね」 「……は?」 「合意の上のセックス。まぁあまりにも具合が良かったからつい、やり過ぎはしたけど」 その結果が、今ぐったりとベッドに横たわる葵の姿なのだろう。 「合意なわけないですよね」 葵は驚くほど世間知らずだし、対人能力も低い。遊び慣れた様子の上級生に絡まれ、言いくるめられたに違いない。 葵から目を離したことは咎められるだろうが、颯斗よりも加害者に矛先が向くはず。二人を藤沢家に突き出す算段を始めた颯斗だったが、彼らは全く慌てる様子を見せない。 「なんで言い切れるの?葵は君よりずっとオトナだと思うよ」 葵の髪を撫でるその手の仕草だけでも美智からは妙な色気が醸し出されているように感じる。“オトナ”というのも性的な意味合いを持つ表現なのは理解できた。 「ちなみに、また遊ぶ約束してるんだけど。昼休みじゃちょっと足りないんだよね。さすがに食事抜くのはしんどいし」 どうやら彼らは葵でしばらく遊ぶつもりらしい。特定の相手を持たないと聞いたことがあるから、よほど葵を気に入ったのだろう。 でもさすがに黙って差し出すわけにはいかない。仮に葵が流されて許可をしていたとしても、日常的に慰み者にされるのを見過ごすほど無責任にはなれなかった。 「今日は不可抗力で授業サボらせたけど、毎回そうもいかないしね。どうしたらいいかな?」 「今回のこと、葵さんの親には報告しますから。二度目は有り得ないと思いますよ」 尋常でないほど過保護に葵を溺愛する馨のことだ。美智と彰吾を退学にするぐらい簡単に成し遂げるだろう。だから颯斗は強気に言い返してみせたが、二人はそれでも動揺する気配すらない。 「それは葵のため?葵はバレたくないみたいだけど」 「そんなの、あなた達が脅したからでしょ?」 自分自身を守ろうとしたのが見透かされたのかもしれない。美智だけでなく、無口な彰吾の視線もどこか颯斗を責めるようなもの。

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