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side美智
四日間の試験のうち、半分が終わった。週末で残り二日間分の試験科目の出題範囲を詰め込もうとするクラスメイトたちの会話は、美智にとって耳障りでしかない。
全国模試でトップクラスの成績を維持し続ける美智には、高校の定期試験など遊びにすぎない。何も備えずとも、今回もまた自分が首位であることをすでに確信している。
試験が近づくと美智に試験のヤマを聞いてきたり、ノートを借りようとしたりする同級生が現れ、鬱陶しくて敵わなかったが、毎度きっぱりと断ってきたおかげで、さすがに高校三年になった今は平穏なものだ。
彰吾と共に興じている危険な遊びの噂も相まって、美智に気軽に話しかけてくるような輩も随分少なくなった。
騒がしい教室を出ると、ちょうど隣のクラスの彰吾と鉢合わせになった。特に示し合わせたわけではないが、自然と隣に並び、廊下を進むことになる。
彰吾は美智ほどではないにせよ、楽に推薦を取れるぐらいの成績は維持している。効率よく高校生活を送ろうとする彼の性格は美智とは相性がいい。
「時間ずらしゃよかった」
他学年も今日は同じ時間に試験が終わったらしい。階段を降りるたび、周囲に生徒の数が増えていく。彰吾が愚痴を零すのも無理はない。美智も騒がしいのは嫌いだ。
けれど、少し先に金色の髪が見えると途端に口元が緩む。彰吾も美智の視線を辿ってその存在に気が付いたのだろう。だるそうな顔つきが途端に野生味を増した。
小柄な上に歩みの遅い葵に追いつくのには苦労しなかった。ここ十日ほど校内を賑わす噂の中心人物が揃ったことで、周囲が道を開けたことも助けになった。
「葵」
呼び掛ければ、ただでさえ丸っこい目をさらに丸めてこちらを見上げてくる。そして隣の彰吾のほうにも目線を移し、あの何もかもを諦めてしまったような顔をしてみせた。
「さすがにここじゃ何もしないよ。葵が望むなら別だけどね」
葵の横に寄り添うように並びながら、美智は伸ばした指で彼の形の良い唇を撫でてやる。それだけで美智たちを興味深そうに観察していた一部の生徒からはざわめきが起こった。
「変な噂起こすような真似やめてください」
美智の手を払ったのは葵ではなく、傍に控えていた颯斗だった。犯すのは止めないくせに、唇への些細な悪戯を止めるなんて馬鹿らしい。観衆の前では世話役としての働きぶりをアピールでもしたいのだろうか。
颯斗の言葉を無視し、葵の手を引いて歩き出せば、彼は悔しそうな顔をして後を追ってきた。
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