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「ん……んッ」 後ろを振り仰ぎ、さらには背伸びまでしてキスを受け止める葵の姿勢は少し苦しそうではあるが、可愛らしい味のついた葵をどこまでも食べ尽くしたくなる。 角度を少しずつ変えながら唇を啄みつつ、馨はウエストに回した手をそっとブラウスの裾に滑り込ませた。下着の縁に手を掛け、じりじりと引き下ろしていく。だがこの体勢でキスをしながらでは、わずかにずらすことしか出来ない。 「誰かに見られてるかな?」 仕方なくキスを中断した馨は、すっかり唇を艶めかせた葵の視線をもう一度ガラス窓に戻させる。 腰回りはブラウスの裾で隠れてはいるが、中途半端に下ろされた下着も、床に散らばった衣服も、そしてキスだけで蕩けた顔をする葵も。夜の色をしたガラスに全て映り込んでいた。 この光景を覗ける建物など目の前には存在していないが、それでも葵は馨の言葉で第三者に観察されていることを想像したのだろう。羞恥で小さく体が震えるのが分かる。 「いっそ、皆に教えてしまいたいけどね」 そうすれば、馨たちにお互いの存在以外必要ないと誰もが分かるはずだ。 膝まで下着を下ろしてやると、あとはストンと足首まで自然に落ちていく。上品なローファーに下着が絡む姿は、恐ろしく淫靡に見えた。 そうして葵の身を包むのは真白いブラウスと靴下、そして靴だけになった。少しずつ無防備に剥いていく行為は、共に過ごせる時間が長くないと楽しめない。だから馨はまだ葵とこの窓辺でじゃれるつもりでいた。 「……ん」 再び唇を重ねながら、ブラウス越しに薄い腹をまさぐる。ボタンは外さない。あくまで布を通して優しい愛撫を与えるだけ。もちろん、一昨日、そして昨夜も散々焦らすだけ焦らして結局触れなかった胸の突起を弄ってやることもしない。 パジャマよりは硬い布地が肌を擦れる感覚は敏感な体には毒なのかもしれない。何度も何度も舌を絡ませ合いながら、ただ葵の肌をくすぐっていると、時折ぴくんと体を跳ねさせるようになった。 恐らく、尖り始めた突起の先にブラウスが擦れるのだろう。それを避けるためか、それとももっと刺激が欲しいのか。葵は体を震わせている。 「そういえば、試験が全部終わるまでお預け、だったっけ?」 馨がそうして意地悪を言うと途端に泣きそうに眉をへたらせてしまう。 二日連続で決定的な場所には一切触れず、悪戯に高められた体はもう限界なのだろう。こうしてホテルの客室に連れ込まれた時点で、抱かれることは覚悟していたはずだ。なのにまた今夜も焦らされるだけ。そんな未来を予想して怯えたようだ。 だから馨はすぐにネタバラシをしてやる。 「嘘だよ、葵。柾との食事を頑張ったご褒美、ちゃんとあげないとね」 きつく抱きすくめてやりながら頭を撫でると、安心したのか小さく息が漏れた。

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