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side美智

試験時間中の校舎は、不気味なほど静まり返っていた。美智はその廊下を目的の場所まで迷いなく進んでいく。 今日最後の試験は、半分以下の時間で解き終えすでに提出済み。特に演技もせず、普段通りの顔で具合が悪いと試験監督の教員に伝えても、美智の成績を知っている彼は引き止めることなどしなかった。 「あのさぁ、今試験中じゃないの?」 扉を開けた人物が美智と分かるなり、怪訝な顔で睨みつけてきたのはこの部屋の主。 「あれ、葵は?教室戻っちゃった?」 「ううん、試験巻きで終わらせて今寝てるよ」 「へぇ」 どうやら今日この場で試験を受けているのは葵だけらしい。出来るだけ長く体を休められるよう、葵は少し無理をしてでも全ての試験を詰めて終わらせたのだという。 保健医の机の上に置いてある解答用紙を覗き見ると、全ての欄がきちんと埋められている。適当にこなしたわけでもないようだ。時折感じる葵のこうした強かさが、美智は嫌いではなかった。 「葵は賢いんだね、ちょっと意外」 ぼんやりした印象が強いからか、なんとなく勉強はあまり出来ないのかと思っていた。美智にとっては良い情報だ。 「で、君は何しに来たの?見るからに元気そうだけど?」 「葵のお見舞い」 「長谷部の顔みたら具合悪くなるからダメ」 随分ひどい言われようだ。でも今朝図らずとも彰吾が葵に触れたと知って、どうしようもなく葵が恋しくなったのだから様子ぐらい見せてほしい。 「セックスはしない。約束します」 「真面目な顔して何当たり前のことを。……ったく。起こさないでやってよ。今よく眠れてるみたいだから」 保健医は呆れた顔をしつつも、ベッドの並ぶ奥の部屋への入室を許可してくれた。美智に全く引く気がないことを察したのだろう。 少しだけ窓が開かれているようで、ベッド同士を仕切るカーテンが風に揺られている。部屋の電気は落とされ、自然光だけが差し込んでいる真っ白な空間。四方をきっちりとカーテンで囲まれたスペースを覗くと、そこには目的の人物がいた。

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