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「いい子だね」 余韻に浸って力なくシーツに体を投げ出した葵を抱き締め、褒める言葉を口にする。本当に馨の望み通りに育ってくれていた。 「明日は抱いてあげるからね」 そう言って葵の額にキスを贈ると、彼も馨に腕を回してくる。そのまま涙の滲む目元、そして唇にも口付けてようやく馨はベッドから腰を上げた。 「おやすみ、可愛い葵」 乱れた衣服を整えてやり、布団を掛けてやれば葵は大人しく頷きを返してくる。きっとまだ体の奥底で熱がくすぶっているはずだ。馨にそこを貫かれ、散らされなければ弾けることのない熱。結局葵はもどかしい夜を過ごすことには違いない。 書斎に向かうと、そこには秘書の姿があった。すぐに戻ると告げてからもう随分と時間が経っていた。何をしていたかは分かっているはずだが、彼は文句一つ言わず、準備していた書類を差し出してきた。 窓辺の椅子に腰掛けた馨は、その一つ一つに目を通していく。役職のついた身ではやたらと承認や確認を求められるが、こうした仕事は好きではない。途中で投げ出したくなった馨の心境に気がついたのか、ニコラスは馨の気分を良くさせる話を持ちかけてくる。 「先ほど、フィッティングの相談がございました」 「へぇ、楽しみだな」 葵の誕生日に向けて用意している衣装の話だ。デザインと制作を任せている人物から連絡があったらしい。葵のサイズは伝えていたものの、実際に着せた状態をみて最終の調整を行いたいと言われていた。 「どこかで都合つけておいて」 「承知いたしました」 頭を軽く下げたニコラスは早速タブレットを操作し始めた。近いうちにどこかでその予定が差し込まれることだろう。 葵にきちんと説明したことはなかったが、次の自分の誕生日に何が行われるか、それとなく理解はしているはずだ。馨の思いつきでこうした遊びに付き合わせることは今まで何度もあった。だから、それほど抵抗も覚えない気はする。 美しく着飾らせ、愛を誓い合う儀式。単なる形式的なものだが、葵の意識にはさらに深く刷り込まれることだろう。一生馨のものである、と。 少し先の未来を思い描きながら、馨は再び書類に目を通し始める。早くつまらないことは終わらせて、葵の眠るベッドに戻りたい。 「柾様も、ご準備を進めていらっしゃるようです」 ニコラスが遠慮がちにそう告げてくる。葵の誕生日の話だ。簡単に諦めることはないと踏んではいたが、やはり馨に相談もなしに事を進めるつもりらしい。

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