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第2話-①
規則的な機械音が今日も遠くから聞こえてくる。しかし今日はその音と共に自分を呼ぶ声が混ざっていた。
「――た、しょーた」
呼び起こす声。誰の声だ。眠りから覚醒していく意識の中で、ゆっくり考える暇も与えられず、再びその声に名前を呼ばれた。
「将太!」
その溌剌とした声に驚いて、将太は思わず目を見開き一気に眠りから覚めた。
「おはよう!」
朝日のような眩しい笑顔が至近距離に覗き込む。ベッドの上で四つん這いに跨り、寝起きの将太を見下ろしているのは幸太郎だった。
「うわあああああ!!近っ!近い近い近い!ちょっ離れろって!」
咄嗟に幸太郎のおでこを押さえ、将太は距離を取ろうと抵抗した。
「ええー、だって将太中々起きないんだもん」
いくらニコニコ顔であっても、寝起き一発目でこんな至近距離に顔があったら普通驚くだろう。会った時からそうだったが、グイグイと迫ってくる幸太郎の距離感に、将太は未だ戸惑いを隠せないでいた。
「もう起きた!もう起きたからとりあえずお前はベッドから降りろ!」
マーガリンを塗った食パン一枚とブラックコーヒー。そんな質素な朝食を取りながら将太は幸太郎の願望である成仏について話を切り出した。
「で?成仏出来ないってことは結局この世に未練があるってことだろ?何かやり残したこととか、行きたかった場所とかあるか?」
「うーん、そうだなぁ」
軽く天を仰ぎ、少しの間考えを巡らせると幸太郎は矢継ぎ早に言い出した。
「行きたい場所は猫カフェでしょ、水族館にプラネタリウムにバッティングセンター!それからゲーセン!スコアあと一歩で悔しかったんだー!」
何だそんなことか。どれもこれも簡単に済みそうな未練で助かった。将太はそう思い、内心ホッとしていた。
「じゃあ片っ端から行くか」
「ええっいいの!?」
身を乗り出し、キラキラと目を輝かせる幸太郎に将太はたじろぐ。
「だってそれがお前の未練なんだろ?」
そんなに嬉しそうな反応が返ってくるとは思わなかった。成仏の件を強引に依頼されたとはいえ、こちらも交換条件として用心棒をお願いしているのだ。形だけでも実行しなければならない。だから行動に移そうとしたまでだ。
「これ食ったら出かけるから、少し待ってろ」
「やったー!ありがとう将太!」
将太は朝食を済ませると、日差しが照り付ける家の外へと足を踏み出した。
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