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第4話-②
「あ……」
短く言葉を漏らした将太に幸太郎が尋ねた。
「どうしたの?」
「指切った。えっと、絆創膏は……」
ボックスのふたを開けて絆創膏を探す将太。その後ろ姿を、幸太郎は無表情でじっと見つめていた。
透け始めた幸太郎の体。それは腕から始まり、日を追うごとにゆっくりと全身へと広がっていった。今や幸太郎の体は所々景色が透けて見えるほど透明になっている。
幸太郎は突然将太の手を引き寄せた。体を引っ張られ何事かと思った時には、既に将太の指先は幸太郎の口の中にあった。
「なっ!」
幸太郎の行動はいつも大胆だ。将太は驚き思わず顔を赤らめた。傷口を舐めている幸太郎の姿。その姿が妙に色気漂う。幸太郎の舌がねっとりと絡みつき、指先から第一関節まで辿ってくる。舌の上で丁寧に包み込み、時には吸い付くように締め付けられ、弱まると吐息と共に開放される。その繰り返しだ。
「こ、幸太郎何して……!」
指先から伝わる感触。容赦なく絡まる舌に、将太の体も疼いていく。果たしてこれは傷口をただ舐めているだけと言っていいのだろうか。このままでは変な気分になってしまう。唾液と共に舌の上を滑る指。ぬるりとしたその感触が将太の脳幹を刺激した。
「ちょっ、幸太郎……!」
これ以上は駄目だ。将太は咄嗟に幸太郎を突き放した。
「幸太郎!」
押しのけた勢いのまま、幸太郎は支えるすべなくバランスを崩すと床に転倒してしまった。その時、カランと何か金属のような、硬くも澄んだ音が耳に入った。幸太郎の側で音を立てて、くるくると回転する。やがて収まると、銀色に艶めく小さな輪っかが将太の目に映った。
陽の光を浴びて円を描くように輝く指輪。渡せなかったと、以前幸太郎が話していた指輪だ。
将太は指輪から目を逸らし、背を向けて言った。
「……悪い。絆創膏切れてたから買ってくる」
「あっ、僕も一緒に……」
既に消えかかっている幸太郎の両足。立ち上がろうとする幸太郎に、将太は優しくもどこか憂いを帯びた声で返した。
「お前は留守番しててくれ」
「でも、僕……!」
「大丈夫、黒いモヤは最近現れなくなったし、ちょっと出かけてくるだけだから」
そう言って玄関へ歩き出す将太の背中。幸太郎はその背中に手を伸ばした。
「待っててくれ」
振り向くことなくかけられた言葉。幸太郎が伸ばしたその手は、将太に届くことはなかった。
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